東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

【IMARTレポート】
[特別講演]ジャンプの世界戦略:
MANGA Plus海外配信の狙い伊東敦+籾山悠太

 「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門スペシャル事業のクロージング企画、マンガ・アニメの未来を作るフェスティバル「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」が、2019年11月15日(金)〜17日(日)にかけて、豊島区役所本庁舎にて開催された。
 開催初日となる15日は、朝11時からIMART初回のセッションとなる特別講演「ジャンプの世界戦略:MANGA Plus海外配信の狙い」がスタート。集英社編集総務部・部長代理の伊東敦氏と週刊少年ジャンプ編集部・少年ジャンプ+副編集長の籾山悠太氏の二人が、海外向け無料マンガ配信サービス「MANGA Plus by SHUEISHA」の狙いについて80分間たっぷりと語った。その模様をレポートする。(編集部)

ジャンプを世界中で読めるようにしたい

 IMARTの開幕を飾った特別講演「ジャンプの世界戦略:MANGA Plus海外配信の狙い」では、集英社の伊東敦氏と籾山悠太氏が登壇し、2019年1月にスタートした海外向け無料マンガ配信サービス「MANGA Plus by SHUEISHA」の戦略について、日本のマンガが置かれている状況に触れながら解き明かした。

左から伊東敦氏、籾山悠太氏

 

 「MANGA Plus」は日本・中国・韓国を除く全世界で配信されているマンガ閲覧サービスである。『週刊少年ジャンプ』や『少年ジャンプ+』などに掲載される、『ONE PIECE』など集英社のマンガ作品の最新話が、日本国内の販売・配信と同じタイミングで更新されるため、世界中どこにいてもタイムラグなく楽しめる。
 言語は英語とスペイン語の2種類。スペイン語を取り扱った理由について、10年近く海賊版対策に携わってきた伊東氏は「YouTubeに違法アップロードされたマンガの中で、スペイン語の件数が最も多かったこと」を挙げた。なお中国は市場が非常に独特であること、韓国はすでにサイマル配信で多くの作品を公開していたことから、サービス対象外となっている。

 

 セッションで多くの時間が割かれたのが海賊版への対策だ。経済産業省の調査によると、アメリカにおいて海賊版で読まれたマンガの総額は1兆3000億円にのぼり、マネタイズできる最大規模は5000億円という報告があった。籾山氏は海賊版について許せないという気持ちがある一方で、そういった層を正規配信で取り込むことができれば、大きなビジネスチャンスに繋がるのではないかと考えたと述べる。
 そもそも「MANGA Plus」のサービス開始前には、ジャンプ作品が発売日と同時に正規配信されている国は15ヵ国程度に過ぎず、海賊版でしか読めない国がほとんどという状況にあった。「まずは世界中で普通に読めるようにしたい」という気持ちが、「MANGA Plus」のサービス開始の一つの動機であったと語る。

左から椎名ゆかり氏、菊池健氏

 

 海賊版対策で効力を発揮したのは、日本での販売・配信と同じタイミングで作品を更新したことだ。ユーザーはいち早く最新話を読みたいため、正規版の配信日より前に海賊版が流失すると、そちらにアクセスが集中してしまう。「遅い正規版より早い海賊版」という長年の課題は、日本のリリースと同時配信するという手法によってある程度防ぐことに成功した。
 しかし日本には、『週刊少年ジャンプ』を正式な発売日である月曜日より前に販売している所謂「早売り」の店舗が複数あり、未だに海賊版が先にアップロードされてしまう事態が発生している。『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』は、掲載を『週刊少年ジャンプ』から早売りがされない『Vジャンプ』に移籍した途端、「MANGA Plus」での海外の閲覧数が2.5倍に増加したという集計もある。その数字の大きさから考えても、どこよりも早く読める場所を提供していくことがユーザー数のさらなる増加のカギになりそうだ。

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