東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

イントロダクション:「マンガ・アニメ3.0」が目指す未来「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門事業ディレクター対談
土居伸彰×山内康裕

 現在、豊島区で開催中の「東アジア文化都市2019豊島」では、その主要部門として「マンガ・アニメ部門」を設置している。同部門は、民間ではなく「公」だからこそできる貢献を行うため、2月1日のオープニングより様々な事業を展開。今回新たにWebメディア「マンガ・アニメ3.0」を立ち上げた。
 運営にあたってのコンセプトは、当Webサイトのドメイン名にもなっている「mapdate」。マンガ(“M”anga)とアニメ(“A”nime)の情報や知見をアップデート(u“PDATE”)すること、そして日本も含めたアジアのマンガ・アニメの現状をマッピング(“MAP”ping)すること、という意味が込められている。そんな「マンガ・アニメ3.0」を、「東アジア文化都市2019豊島」内のスペシャル事業としてスタートするにあたり、そのイントロダクションとして、土居伸彰と山内康裕の事業ディレクター二名による対談形式で、当プロジェクトがどういう経緯で生まれ、何を目指しているのかについて紹介する。「マンガ・アニメ3.0」というプロジェクトのステイトメントとしてもお読みいただきたい。

聞き手・構成:高瀬康司


――今回、「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門の事業の一つとして、「マンガ・アニメ3.0」というWebサイトが立ち上がりました。「東アジア文化都市2019豊島」がクロージングを迎える11月24日までの半年間、この事業が展開されます。それにあたり基礎的な確認をいくつかできればと思うのですが、まずそもそも、この「東アジア文化都市」とはなんなのでしょうか。

 

山内康裕 「東アジア文化都市」は、日本・中国・韓国の国際文化交流事業として2014年からスタートしたプロジェクトです。毎年、日本・中国・韓国それぞれで開催自治体が選ばれ、文化庁と共催で文化交流を行っていきます。2019年は豊島区が日本の代表都市として選定されました。これまでの東アジア文化都市が主にフォーカスしてきたのは現代美術や演劇などハイアート寄りの文化だったのですが、今回の「東アジア文化都市2019豊島」では、ポップカルチャーの街として今すごく勢いのある「池袋」を抱え、またかつてトキワ荘があった自治体として、東アジア文化都市の歴史の中でマンガ・アニメ部門をはじめて一つの柱として設けました。古川タク総合ディレクターのもと、僕ら二人が事業ディレクターとして企画の立案と運営を行っています。

 

土居伸彰 マンガ・アニメ部門がテーマとしているのは、トキワ荘のあった「過去」とポップカルチャーの街として盛り上がる「現在」を繋ぎ、同時に様々な事業を通じてマンガ・アニメの「未来」を作ることです。豊島区では民間が主導する形でマンガ・アニメが盛り上がってきましたが、現在、区もそこに力を入れようとしています。マンガ・アニメ部門としては、「公」でなければできないプロジェクトを積極的に行うことにより、その官民一体の流れをさらに後押しし、マンガ・アニメのシーン全体にとってよりよい形で未来が築けないかと考えています。マンガ・アニメ部門では現在「としマンガ としアニメ キャラバン」や「マンガ・アニメ区役所」などのプロジェクトが進んでいますが、その中でもマンガ・アニメの未来を作ることに直接的に寄与しようと出てきた企画が、この「マンガ・アニメ 3.0」です。
 僕らは二人ともクリエイターではなく、プロデュースやキュレーション、文筆などを通じて、マンガ・アニメの状況・環境を整備する仕事をしてきた人間なのですが、そうした活動をする中で、マンガ・アニメをめぐるジャーナリズムが未整備であるという印象を抱いていました。作品は日々作られ続けているけれども、それをどう語るかについての方法論や情報整備が十分ではない、という共通認識があったんです。歴史を意識し、客観性を持とうとするジャーナリズムが不十分なままでは、せっかく制作の現場でエキサイティングなことが起こったとしても、そのことの真価がわからないまま、次の世代に継承されないまま、失われてしまう恐れがあります。

 

――とはいえ、Web上に限ってみても、「マンガ・アニメ」を取り扱うメディアはむしろ多すぎると捉えている方もいるのではないでしょうか。

 

土居 もちろん今でもWebメディアはたくさんあります。しかしその多くは広告モデルによって運営されており、アクセス数を見込める話題性の高いトピックが重視される性格は否めないと思います。その中で瞬間的な消費にとらわれず、マンガ・アニメをめぐる残すべき価値のある情報を、歴史的な文脈なども考慮しつつきちんとストックする試みが、今行われている以上に必要なのではないか、という気持ちが企画の出発地点としてありました。

 

山内 それが民間ではなく、公が行う意義であり、文化振興について担うべき役割かなと思います。また今回のプロジェクトは「豊島区」という「東京」の都市で開催される点も個人的に重要視しています。マンガ・アニメといったポップカルチャーは地域振興のために使われることが多いですが、そこに「日本の文化として世界に対して首都から発信していく」という文脈が加わるからです。その意味でも、2020年の東京オリンピックを控えたこの2019年に、日本のカルチャーの一つの中心であり海外からも注目されるマンガ・アニメを、トキワ荘発祥の地であるこの豊島区から世界へ発信するメディアとして、「マンガ・アニメ3.0」をやる意義は大きいと思っています。

 

歴史性という縦糸

――マンガ・アニメ部門ではすでに2月にオープニング展示が行われています。そこで上映を行った、クリヨウジ先生、さいとう・たかを先生、里中満智子先生、しりあがり寿先生、夏目房之介先生のインタビュー映像を文字化した記事も、今後当サイトに掲載予定ですが、これらのオープニング展示はどういったコンセプトで行われたのでしょうか。

 

山内 今回の「東アジア文化都市2019豊島」は、2月1日に開幕式典、11月24日に閉幕式典を行い、その間にこの「マンガ・アニメ3.0」を含めた様々な企画・イベントが行われていきます。
 二つのオープニング展示は開幕式典に合わせて開催し、トキワ荘のあった自治体ということでマンガを主軸にしました。東京芸術劇場ギャラリー1では「オールとしま・ウェルカム・東アジア」というトキワ荘や豊島区に縁のあるマンガ家の原画展示やトークイベントを行った一方、豊島区役所本庁舎での「区庁舎がマンガ・アニメの城になる」で上映したのが、日本のマンガ・シーンを作り上げてきた作家・マンガ研究者の方々へのインタビュー映像です。そこでは「どのようにして今私たちが楽しんでいるマンガ文化が作り上げられてきたのか」「マンガと社会の関係性はどのように変わってきたか」というトピックについてうかがうなど、「過去と現在を繋ぐ」ことを中心的なテーマの一つとしました。

 

土居 豊島区は現在、乙女ロードやコスプレなどを中心に、マンガ・アニメの消費が盛んな都市ですが、遡れば「トキワ荘」というレガシーが存在した場所です。現在、来年の春へ向けてトキワ荘の復元が進んでいますが、現状において「過去と現在との連続性」が意識されることはあまり多くありません。しかし一方で、トキワ荘出身のマンガ家たちが日本の戦後のマンガの大きな部分の源流になっているのは間違いないわけで、戦後のマンガ・アニメの礎を築いたトキワ荘から現在の池袋へと至るその歴史的な積み重ねを可視化することも、事業全体の重要なコンセプトになっています。久野遥子さんと山下敦弘さんの共同ディレクターによる、東アジア文化都市2019豊島のPR映像にも、過去と現在が出会うというコンセプトが盛り込まれています。

 

 

山内 また、マンガの神様・手塚治虫先生は1928年生まれですから、すでに生誕90年を越えている、という時代認識もありました。90年ということは、現在の様式のマンガはすでに四世代目に突入しつつあるということです。今の若者にとってはおじいちゃんやおばあちゃんよりも上の世代なわけですから、手塚先生やトキワ荘の作家陣のことを知らない読み手や作家が生まれてくるのは、ある意味では当たり前のことなわけです。だからこそこうした機会に過去と現在を繋げて提示してみせることは、現在から未来へとマンガ・アニメ文化をバージョンアップさせるために必要なステップだと考えました。

 

土居 今までマンガ・アニメがどのような道を辿ってきたのかを意識したうえで、マンガ・アニメの新しい形のようなものを作り出していきたいというのが、マンガ・アニメ部門の大きな目標です。今、マンガ・アニメの状況が激変している中で、次の一手としてどういうことがありえるのか。そのこともまた、歴史を参照することで見えてくるのではないでしょうか。

 

日本・中国・韓国という横糸

――未来を見据えるための歴史的視線が一つ重要なコンセプトとして挙がりましたが、過去と現在を繋ぐだけではなく、「東アジア文化都市」には日本・中国・韓国を繋ぐというコンセプトもあるわけですよね。

 

土居 はい。特にマンガ・アニメという表現メディアは、日本・中国・韓国の国際交流において大きな役割を果たしてきたという歴史があります。しかしその一方で、日本・中国・韓国のマンガ・アニメ文化というと、どうしても日本が与えた影響ばかりが取り上げられやすいという歪な状況が続いてしまっています。
 かといってそれを正そうにも、日本においては日本・中国・韓国のマンガ・アニメの歴史や状況がきちんと共有されておらず、明文化されていない部分も多い。とりわけ日本と中国の間ではビジネス的な観点で交流が深まっている状況がある中で、お互いが理解し合うためにも、それぞれの国のマンガ・アニメが辿ってきた歴史や相互の影響関係をあらためて再考察する必要性を感じます。

 

山内 たとえば手塚先生も、デビュー前に観た中国の長編アニメーション『西遊記 鉄扇公主の巻』(1941)に強く感銘を受けたと語っていますし、近年に目を向けても、Webマンガの文化は韓国のほうが日本よりも先行して発展してきたうえ、今や中国でも急速に整備が進んでいます。
 マンガ・アニメをめぐっては、それぞれの国が、それぞれの歴史のもと、それぞれ異なるスタイルを発展させてきました。各国の状況を正確に知り、お互いの国の長所・短所を冷静に分析することを通じて、アジア全体のマンガ・アニメ文化の底上げに繋ぎたいという思いがあります。

 

土居 4月から始まった「としマンガ としアニメ キャラバン」や「マンガ・アニメ区役所」でも、中国・韓国の作家を積極的に紹介していきます。4月28・29日に開催した「としマンガ としアニメ キャラバン vol.1」では、韓国からチャン・ヒョンユン監督、中国からチェン・シー監督をお招きして、上映&トークをお届けしました。両監督には、「マンガ・アニメ区役所」の展示にも参加してもらっています。6月に開催の「としマンガ としアニメ キャラバン vol.2」でも、やはり中国と韓国の作家をフィーチャーしていきますので、作品を通じても、中国・韓国のアニメーション文化やその歴史を知ってもらいたいと願っています。

 

山内 また、僕たちが中心的に行うスペシャル事業以外にも、「東アジア文化都市2019豊島」ではマンガ・アニメ関連の様々な企画が展開されていきます。公式サイトをこまめにチェックしていただければと思います。

 

土居 そして最後には、マンガ・アニメ部門のクロージング企画として、11月15日~17日に日本・中国・韓国をはじめ世界のキーパーソンをゲストにお招きするカンファレンスを中心としたフェスティバル「豊島国際マンガ・アニメ祭(仮)」も開催します。こちらは、マンガ・アニメの未来を作るという目的を中心に据えたフェスティバルで、「マンガ・アニメ3.0」と問題意識が最も近いものになります。いずれもマンガ・アニメの状況をアップデートする、意義ある企画にしていきたいと考えていますので、ご注目ください。

 

聞き手・構成:高瀬康司

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