「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門の歩み
――「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門事業ディレクター
+IMARTカンファレンススペシャル・アドバイザー座談会(前編)数土直志+菊池健+土居伸彰+山内康裕
2019年2月1日から開催された「東アジア文化都市2019豊島」が11月24日のクロージングセレモニーをもって幕を閉じた。その間、「マンガ・アニメ部門」では、その集大成となる「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」(IMART)を筆頭に、多種多様なイベントが催されてきた。そのいくつかは、当サイトにレポートとしてまとめられてもいる。
ここでは事業ディレクターの土居伸彰と山内康裕が事業全体を振り返るとともに、後半ではIMARTのカンファレンススペシャル・アドバイザーを務めた数土直志氏と菊池健氏も交えて、今回のIMARTと、これからの展望について語ってもらった。
聞き手:高瀬康司、構成:高瀬康司、高橋克則
「東アジア文化都市 2019豊島」が行ってきたこと
――「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門のスペシャル事業を締めくくる「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」(IMART)が、11月15日から17日まで開催されました。終わってみて感想はいかがですか?
土居 今回のマンガ・アニメ部門のスペシャル事業では、池袋を擁する豊島区が歴史的に辿ってきた役割を考える中で、「文化産業として発展を遂げたマンガ・アニメに対して、行政がどのようにサポートしうるのか」を指針として事業の企画を立ててきました。その集大成として行われたのが、マンガ・アニメの未来をテーマにした日本初のボーダーレス・カンファレンス「IMART」です。マンガ・アニメの業界関係者を一同に集めてその知見を共有する場は、誰もが必要だと感じつつも、「民」のレベルではこれまで実現されてこなかった。今回はそれを、豊島区や文化庁といった「官」の力を組み合わせることによって開催することができました。マンガ・アニメ業界を官民で作っていくという、未来を見据えた活動を実現できたという手応えがあります。
山内 豊島区はIMARTの開催地として非常に相応しい場所だったと思います。手塚治虫をはじめとする、現在のマンガの礎を築いたマンガ家たちが青春時代を過ごしたトキワ荘の地という歴史的な観点があり、また近年では「アニメイトガールズフェスティバル」や「池袋ハロウィンコスプレフェス」といったイベントでファン目線でも盛り上がりを見せていますからね。IMARTはそこからもう一歩踏み出して、マンガ・アニメを「文化産業」として捉え直してみたいという気持ちがありました。クリエイター、編集者、プラットフォーマー、そして研究者まで、マンガ・アニメ業界関連者がここまで多角的に集結したのは初めてはないでしょうか。次の機会に繋げられる意義のあるイベントになったと自負しています。
――「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門の全事業が終了したところで、あらためて時系列順に振り返っていければと思うのですが、はじめが2月に東京芸術劇場でオープニング展示「オールとしま・ウエルカム・東アジア」ですね。
山内 東京芸術劇場コンサートホールでの開幕式典に合わせて、同じ階のギャラリー1で3日間にわたって開催した催しでした。豊島区にゆかりのあるマンガ家の展示や区と共に地域を盛り上げている事業者の方々の出展を通じて、開幕式にいらっしゃった中国や韓国をはじめとする海外の方々や豊島区民の方々に、区の持つポテンシャルや、マンガ・アニメの過去・現在・未来を凝縮して伝えていきました。さらに、島本和彦先生と藤田和日郎先生のバトル対談などマンガ・アニメ業界でも話題になるようなステージイベントを実施し、メディアやSNSを通じて拡散することで、「東アジア文化都市」自体の認知が広がったと思います。イベントのオープニングに相応しい大盛況の企画になりました。
土居 同時にスタートした豊島区役所本庁舎でのもう一つのオープニング展示企画「区庁舎がマンガ・アニメの城になる」では、マンガ・アニメにおける「言葉」に着目しました。具体的には、マンガ・アニメの道筋を作ってきた先人たちのインタビュー映像を庁内で上映したり、豊島区ゆかりのマンガ家たちの作品のセリフをフキダシとともに展示したりと、言葉によってこれまでの来歴を確認して、これからの歴史を作る入口になれればと考えました。
――会場でも上映された、「東アジア文化都市2019豊島」プロモーション映像は映像作家の久野遥子さんが手がけています。
土居 「東アジア文化都市」は毎年開催都市ごとにプロモーション映像を制作しています。今回は豊島区からの要望もあり、アニメで作ることになりました。久野遥子さんにお願いをしたのは、マンガとアニメの両面で活躍していたからというのと、ロトスコープという実写映像をトレースする手法も手がけていらっしゃることが決め手でしたね。街が文化に彩られていくというコンセプトが、実写で撮影した豊島区の風景を元にしたロトスコープでならうまく映像化できると。実写ディレクターとして山下敦弘さんにご参加いただいたことで、懐かしくて人間味もあるけれども新しさも感じられる仕上がりになっていて、「過去と未来を繋ぐ」というテーマもうまく活かすことができました。
――4月からは「としマンガ としアニメ キャラバン」がスタートしました。こちらは豊島区のさまざまな場所をめぐり、マンガ・アニメを楽しめる企画です。
山内 未来の担い手である子どもたちがマンガ・アニメに触れる場所は絶対に必要だと思っていましたが、ただ単に作品を消費財として「見る」だけではもったいない。そこで見ながら考え「鑑賞」ができるような日中韓のアニメ上映をしたり、マンガ・アニメの基を楽しみながら学んで創れるワークショップや体験キットを用意しました。もう一歩踏み込んだマンガ・アニメ体験をしてもらいたかったんです。
土居 マンガ・アニメのイベントは、どうしても池袋のような大きな街が中心になってしまいがちです。なのでこの事業では「キャラバンがいろいろな街をめぐる」という方式を採用しました。豊島区庁舎1階のセンタースクエアを皮切りに、巣鴨郵便局の3階の空きスペースや区の世代を超えた交流施設「区民ひろば」など地元に密着する形で、豊島区内全7ヶ所をめぐりました。
山内 関連企画の「としま子ども4コマ漫画大賞」では361作品もの応募があり、そのレベルの高さにも驚かされましたね。普段からマンガやキャラクターを描き慣れている子たちが相対的に多いのかなと思いました。豊島区は多彩な人々が暮らしている場所なのだなと再確認できましたね。