東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アニメーション“撮影”2019(前編)
――二大話題作の撮影監督が解説する、その基礎と魅力泉津井陽一+津田涼介 対談

 アニメの「撮影」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。アニメは絵なのに、なぜ撮影なのか、という疑問はもっともなものだ。しかし、そうしたわかりにくさに反して、近年のアニメーション表現において「撮影」は、作品の最終ルックを決定付け映像演出の面でも重要な役割を担うセクションとして、その存在感を増している。たとえば新海誠監督のあの独特の映像美は、撮影の力によるところが非常に大きいものだ。
 撮影とは何なのか。黎明期のアニメーション制作スタジオを舞台として大きな注目を集めた連続テレビ小説『なつぞら』アニメーションパートの撮影監督・泉津井陽一氏と、2019年のアニメーション映画で最も話題を呼んだ作品である『天気の子』の撮影監督・津田涼介氏。今年最も多くの観客に愛されたアニメーション作品を支えた撮影監督二人の対談を通じて、アニメの撮影の基礎から現在まで、具体的な事例とともにその魅力に迫った。この前編では、その基礎と津田氏の仕事を中心に紹介する。

聞き手・構成:高瀬康司

アニメの撮影・ビジュアルエフェクトとは何か


――はじめに詳しくない読者へ向けて、アニメの「撮影」とは何なのか、簡単にご説明いただけるでしょうか。


泉津井 一言でまとめると、セル素材(キャラクター)と背景美術とCG素材を、タイムシートに従って合成するセクションです。実際に行っているのは、主にAdobe After Effectsを用いたデジタルコンポジットですが、撮影台を用いてセル画と背景画をフィルム撮影をしていた時代の名残りで、いまだに「撮影」という呼称が使われています。


津田 またそうして組んだ「素撮り」に対して、撮影処理という透過光や入射光、レンズフレア、ディフュージョン、パラ/フレアといった画面効果・エフェクトを加えるのも、現在の撮影の重要な仕事になります。


泉津井 ちなみに津田さんのいるTROYCAさんの場合、「撮影監督」と「ビジュアルエフェクト」が別々のクレジットになっていますよね。僕自身も作品によってクレジットが変わりますし、作品や会社によって様々だと思いますが、津田さんのところではどう使い分けられてますか?


津田 TROYCAの場合は、撮影工程の管理や、作品全体の画作りの責任者が「撮影監督」、エフェクトなどの画作りを担当するのが「ビジュアルエフェクト」という分担ですね。別会社では撮影監督と撮影監督補、という分け方をしているのもよく見ます。


――3DCGの分野で、CG監督とVFXディレクターが分かれているようなものでしょうか。


津田 そうですね。いわゆる撮影のフローとは違う時間軸で作り込みをしなければいけない、専門的な撮影処理の担当グループにビジュアルエフェクトという肩書が付きやすいのかなと。


泉津井 僕もジブリ時代は、「撮影」ではなく「CG」というクレジットでの参加が多かったですが、そのときも撮影部では回し切れない2Dの複雑な貼り込み作業を専任で担当していました。

泉津井陽一氏


――そうした分担はなぜ行ったのでしょうか。撮影が担う役割が拡大した結果?


津田 それもありますし、あとは作品で要求される画面の密度が高まったこと、そしてAfter Effectsで表現できる幅が広がったことも大きいと思います。例えば僕もよくやっていますが、実写素材や撮影スタッフが描いた作画素材を撮影に使う手法も、近年では一般化しました。


泉津井 カラー所属の山田豊徳さんも、その方向の可能性を突き詰めようとしていますね。


津田 まさに個人的な転機となったのは、2010年にAICからカラーに移籍して出会った増尾昭一さんのお仕事です。増尾さんはもともとアニメーターで、カラーでは「特技監督」として作画素材を作り、それをAfter Effectsに組み込むことでものすごく複雑なエフェクトを生み出していたんですね。当時の僕は、After Effects以外でエフェクトを作るという発想自体がそもそもなかったので、実写素材を組み合わせることでこんなにも複雑な画ができるんだと衝撃を受けました。
 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)でエフェクトを担当したあと、2013年にはTROYCAの立ち上げに誘われたことでカラーからは離れてしまうのですが、その後も実写素材を元にしたエフェクトは積極的に活用しています。

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