東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アニメ系ニュースサイトはどのように成立したのか(後編)
――アニメーション、インターネット、ジャーナリズム数土直志インタビュー

 アニメの本数が増加し、インターネットが普及した2000年代、数多くのアニメ系ニュースサイトが開設された。まだWeb上でアニメのニュースを扱うことが珍しかった時代に、先駆者はどのようにしてその規模を拡大し、ビジネスに繋げていったのだろうか。
 今回は2004年にアニメ系ニュースサイト『アニメ!アニメ!』を立ち上げ、現在も『アニメーション・ビジネス・ジャーナル』を運営し、また2019年11月15日~17日に開催される「国際マンガ・アニメ祭 REIWA TOSHIMA(IMART)」ではアニメに関するカンファレンス スペシャル・アドバイザーも務める数土直志氏に、「アニメとWebメディア」をテーマにお話を聞いた。ニュースサイト設立の経緯から企業への譲渡と独立、さらに今後の展望まで、アニメとネットの変化を目撃してきた数土氏の言葉を通じて、現在もなお変化し続けるアニメをめぐるWebジャーナリズムの存在に迫る。

 

聞き手:高瀬康司、土居伸彰、構成:高橋克則

ニュースサイトの価値


――ニュースサイトの収益化が難しい中、『アニメ!アニメ!』はどのようにして利益を出していったのでしょうか?


数土 2000年代後半には、ニュース配信サービスに記事を提供することで収益が得られるようになりました。配信サービスは他社から記事を買って、自社のサイト内でユーザーに読ませるというビジネスモデルです。『アニメ!アニメ!』では2006年にスタートした『mixiニュース』に記事を提供できたので非常に助かったのですが、現在では記事を販売するというビジネスモデルはあまり成り立たなくなっています。
 それは2010年頃から業界最大手の『Yahoo!ニュース』が、記事をお金で買うのを止めて、代わりにPVで還元するという新たな手法を生み出したからです。「お金ではなくPVでキックバックする」という考え方は、他の配信サービスにも伝播して、今は巨大プラットフォームが記事自体にお金を払わうことはあまりないはずです。


――ニュース配信サービスから利益が得られないとなると、ニュースサイトとしては記事を提供するメリットが薄いように思えますが……。


数土 いえ、そうでもないんですよ。配信サービスの提供社になれば膨大なPVが得られるんです。だから無料でもいいので配信させてほしいと考えているWebメディアは山ほどあります。しかし提供社になるためには審査があって、新興のWebメディアが参入するのは今やほぼ不可能、ある種の既得権になっています。『Yahoo!ニュース』をはじめ複数の配信サービスの提供社になっていれば、自然とPVが稼げるわけです。そうしたWebメディアをめぐる状況の変化は、一人で『アニメ!アニメ!』を続けていくのは難しいと感じた大きな理由の一つですね。


――2012年には『アニメ!アニメ!』をサイト運営会社のイードに譲渡し、今度は社員として関わられました。


数土 当時の僕の目論見としては、完全に手放して、フリーランスになるつもりだったんですよ。でも代わりの運営者がいないからと、「譲渡後も管理を続けてほしい」となり、しばらくはイードの社員として残ることになりました。なので僕としてははじめから、「『アニメ!アニメ!』が軌道に乗るまで面倒を見る」という気持ちだったので、のちに独立するのは既定路線だったんです。


――『アニメ!アニメ!』を譲渡したことで、どんな変化がありましたか?


数土 予算が増えたので、ライターにニュース記事やインタビューを依頼する機会が多くなって、編集者としての仕事の割合が増えましたね。ニュース記事をお願いする場合は、プレスリリースや僕が気になった事柄を取捨選択してからライターに送って、記事にまとめてもらうという手順です。一人ではどんなにがんばっても日に3~4本ぐらいしか書き上げられないので、イードに譲渡してからはニュースの更新ペースが上がりました。
 ただ社員になったということは、企業のために売上とPVを第一に考えなければいけない、ということでもあるわけですよ。そのため妥協をしなければいけないことも多かったんですね。取材先に原稿を見せて、問題がないかを確認してもらう、いわゆる「記事チェック」の要求も強くなってくる。しかし原稿の中身は本来、編集者やライターの領分であって、そこに介入されてしまうとメディアとしての独自性がなくなってしまう。
 だからニュース記事もプレスリリースからの転載ではなく、できるだけ自分の言葉に置き換えるようにしていました。リリースを読んで疑問に思ったこと、たとえば「なぜこの会社がこんなサービスを手がけるんだろう」とか「どうしてこの監督がこの作品を手がけるんだろう」といったことを調べて盛り込んでいたのですが、リリースに書かれた情報以外を載せることを嫌う企業もあって、実際に摩擦が起きたこともありました。


――一般には、プレスリリースをそのまま転載するニュースサイトも多いですよね。


数土 しかし、単にリリースを転載するだけでいいのであれば、それこそリリース配信サイトで読めばいいという話になってしまいます。僕は文章に何かしらの個性がないと、記事を読む意味がないと思っているんですよ。


――その後、2016年7月に『アニメ!アニメ!』から独立してフリーランスになられます。


数土 『アニメ!アニメ!』はイードに譲渡したことで、自分一人では実現不可能な数多くのことを達成できたので非常に満足しています。しかしその一方で、企業が運営するアニメ系ニュースサイトを通じて、僕ができることはすべてやり終えてしまったのではないかという気持ちも生まれたんですよ。
 なので独立後に何をやるのかを考えたときに、企業化したことでできなかったことを取り戻したいと思うようになったんです。要するに自分の趣味でやる個人サイトを作りたくなった(笑)。
 今運営している『アニメーション・ビジネス・ジャーナル』は、完全に僕が好きなことをやっているだけで、収益もGoogleの広告配信で得られる月数千円程度です。でも売上とPVから離れたことで、企業のニュースサイトとはまったく別の価値を持った何かが生まれるかもしれない。そう思って現在まで続けています。

Related Posts