東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

中国におけるマンガはどうなっているのか(後編)
――プロダクション方式、Webマンガ、メディアミックス黄亦然インタビュー

 中国のコンテンツ産業が成長を続ける一方、中国のマンガが日本で読まれる機会はまだまだ少ない状態が続いている。中国マンガを知りたいと思っても、その機会すら限られてしまっているのが現状だろう。
 そこで今回は、「一般社団法人マンガジャパン」「アジアMANGA運営本部」「デジタルマンガ協会」で事業統括部長を務め、中国のマンガ史・マンガ事情にも通じる黄亦然氏に、いまだ知られざる中国におけるマンガをめぐる現状を紐解いてもらった。

 

聞き手:高瀬康司、山内康裕、構成:高瀬康司、高橋克則

メディアミックスが前提とされる中国マンガ


――マンガが書籍化されないということは、収益はどのように得ているのでしょうか?


 マンガ単体ではなく、メディアミックスによって利益を出すシステムになっています。マンガ自体は無料公開され、それ自体では儲けにならないのですが、アクセスを稼いで人気になればそのタイミングで書籍化の話も出てきますし、ゲーム化やアニメ化へも繋がりようやく利益が生じます。今はどの作品も将来的なアニメ化を狙って描かれていますね。


――つまり中国のマンガは実質的に、メディアミックスの原作を供給するために作られているということですね。なぜマンガ単体では成り立たないようなシステムになっているのでしょうか?


 中国のマンガ市場は、2000年代に海賊版に席巻された結果、有料コンテンツにお金を落とさなくなってしまったからです。誰もお金を払ってマンガを読まないのが前提なので、無料でなければスタートラインにすら立てない状況なんですよ。だからマンガはあくまで、将来的にアニメ化されるための先行投資であって、極端な話、それ自体が読まれるためには作られていないわけです。「動漫」という言葉によってアニメやマンガなどの二次元コンテンツが一括りにされている状況が、市場にもそのまま表れているんです。


――ではマンガ家を目指す若者はどうしているのでしょうか?


 中国では日本と違ってマンガのインディーズ投稿サイトも少ないですから、個人で発表してもあまり読まれません。たとえば2019年に外務省が主催する日本国際漫画賞で最優秀賞を受賞した湯霄先生の『黒い塔』は、絵がうまくストーリーも心に迫ってくるような本当に素晴らしい作品です。しかし作者が中国のSNSで作品を公開したところ、反響はあまり得られませんでした。
 マンガを仕事にするには結局、どこかのプロダクションに務めることになるわけですが、あくまで集団制作の一員であり、個性を発揮できるような仕事ではないので、マンガではなくアニメやゲームなどほかの「動漫」のメディアに就職する人も多い状況です。特に今の中国の若い世代は、下働きの修行みたいなことはやりたがりませんからね。


――一方、プロダクションで作画スタッフなどとして働く方々は、将来的にはプロデューサー(原作者)や主筆を目指すのでしょうか?


 もちろん自分のマンガ作品を世に問いたい作家さんもいますが、今言ったような状況ですので、アニメやゲームの現場へ転職するための腰かけにしている人も少なくありません。特に中国は、アニメ、ゲーム、マンガなど「動漫」の中での人材の移動が活発なんです。そのためはじめから、マンガはあくまで、ステップアップの過程と考える人が出てくるわけです。


――日本では、メディアを超えてスタッフが移動する例は一般的ではないですよね。


 中国ならではでしょうね。そもそも中国ではプロダクション間の移動も多く、優れたクリエイター同士が「次はこのプロジェクトに参加してよ」と気軽に誘えるような環境がもともと存在しているんです。だからプロダクションに所属する会社員ではあっても、実際にはプロジェクトごとに集まるフリーランスに近い感覚なんだと思います。

Related Posts