東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

「“マンガのマンガ”ができるまで松田奈緒子×山内菜緒子
『重版出来!』スペシャルトーク」レポート松田奈緒子+山内菜緒子

 東アジア文化都市2019豊島がお送りする、豊島区役所本庁舎4Fを舞台に開催したマンガ・アニメの展示企画「マンガ・アニメ区役所」。その第二弾特集展示として、2019年5月9日から11月24日まで催されたのが、“マンガを題材にしたマンガ作品”をめぐる展示「マンガのマンガ展 〜過去と現在、描き手と読み手〜」だ。
 その関連イベント「“マンガのマンガ”ができるまで 松田奈緒子×山内菜緒子『重版出来!』スペシャルトーク」が、2019年9月18日、池袋ジュンク堂書店にて開催された。東アジア文化都市2019豊島 マンガ・アニメ部門事業ディレクターの山内康裕の司会のもと、『重版出来!』の著者である松田奈緒子氏と、担当編集の山内菜緒子氏をゲストに、作品の制作秘話から、ドラマ化の舞台裏、そして今後の出版業界・マンガ業界の展望まで、幅広いディスカッションが行われた。ここでは、スペシャルトークショーの前半部の模様の採録をお届けする。

構成:「マンガ・アニメ3.0」編集部

『重版出来!』の制作秘話


――まずは『重版出来!』が生まれたきっかけについて教えてください。


山内菜緒子 「秘話って何かあったっけ?」と思い出そうとしたんですけど、すごくケンカをしたとか、険悪な状態になってしばらく連絡を取らなかったとか、そういうドラマティックなことは今まで何もなくて。それはひとえに松田さんの人柄ゆえですが……。


松田奈緒子 その通りです。

 

(会場笑)


山内(菜) (笑)。もともとは打ち合わせの中で、松田さんのほうから「マンガの編集部を舞台にしたお仕事マンガで」という話をいただきまして。


松田 もう昔のことなので忘れてしまったのですが、二人で話をしているとき「お仕事ものですかね」という話になって、最初はファッション誌の編集者がいいなと思ったんですね。でも山内さんはファッション誌に詳しくなくて(笑)。


山内(菜) 小学館もファッション誌を出していますけど、部署が違うと文化が全然異なるんです(笑)。


松田 それでマンガの編集部が舞台なら、私自身がマンガ家で、親族にもマンガ編集者がいるので、どちらの気持ちも描けるなと。またアシスタント経験も長かったので、それも描ける。それで本一冊が出版されるまでをマンガにしたら面白いのではないか、と思ったんです。


山内(菜) もともと『編集王』や『働きマン』などの、編集者が主人公の作品を愛していたんですけど、「大変な題材だぞ」とも思っていて。自分たちの仕事をマンガにするわけなので。最初に松田さんが「こんなの描いてみたよ」と、『火曜日はダメよ』というタイトルの、プロトタイプ版のネームを作ってくださったんですが……。


松田 主人公が少女マンガっぽくて、かわいかったんですよね(笑)。


山内(菜) 名前は今と同じ黒沢心だったんですけど、モデルさんのような足の長くて美しい女子だったんです。そんな美人編集者が、マンガ家さんに原稿をあげてもらうために「私の体なんていくらでも差し出します」という第1話で(笑)。

司会の山内康裕(左)、著者の松田奈緒子氏(中央)、担当編集の山内菜緒子氏(右)


松田 作家さんのやる気を出させるために「胸触ってもいいですよ」と言ったりと、「青年誌だから、こんな感じかな。お色気はいるでしょ」と思いながら描きました(笑)。


山内(菜) それで私はなんて言ったらいいかわからなくて……(笑)。


松田 『火曜日はダメよ。』というタイトルは、火曜日は校了日だからデートができないという意味ですね。


山内(菜) でも週刊誌のマンガ編集者が、火曜日以外は毎日暇なんてことはないですし、それをどう伝えればいいんだろうと思って。それで「週刊誌編集者の1日」という日記のような予定表を書いてメールでお送りしたんです。あと雑誌が休刊になったときの気持ちや、マンガ家さんやカメラマンさん、デザイナーさんたちに休刊をお伝えしたときに感銘を受けた、強さについての感想文のようなものなどもですね。
 メールするときは正直、ネームに対して全ボツにするようなものなので、すごく緊張しながら送ったんですけど、それを読んだ松田さんは「マンガ家と編集者以外の人も取材したい」とおっしゃってくださって。その結果、1話のネームが全然違うものになってできあがったという経緯があります。


――どこを取材されたんですか?


山内(菜) 関東と関西の書店を10軒ぐらい回ったり、印刷工程や単行本の出荷、そして断裁するところも見学しました。あと、製版所で原稿をスキャンして、原稿のはみ出しをきれいにするゴミ取りという仕事も見せていただきました。製版所の担当の方が、白手袋をはめて原稿を1枚1枚触ってくださっているのを見たとき、松田さんはすごく感動されていて。


松田 原稿を「宝か!」というくらいていねいに扱ってくださっていたので(笑)。


山内(菜) 建物から出られたあとに「私、これからはきちんときれいに原稿を描かなきゃ」とおっしゃっていましたよね。そういったことの積み重ねで『重版出来!』が生まれていったんです。


松田 本当に、私は「スピードが命!」ぐらいの気持ちで原稿を描いていたので、手袋をして大事に扱ってくれているのを見たときは衝撃でしたね。それに相応しいぐらいの作品を描かなければいけないなと、あれは本当に目が覚める出来事でした。


――マンガ家さんは製版所に一度は行ってみたほうがいいかもしれませんね(笑)。


松田 私以外の方はもとからきちんと描いていますけどね(笑)。

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