東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アン・ジェフン監督と片渕須直監督が語る、
「現実を描く術」としてのアニメーション
――「夢見るコリア・アニメーション」『にわか雨』上映後トークショーレポート「マンガ・アニメ3.0」編集部

 韓国のインディペンデント・アニメーションシーンでは近年、若手の個人作家がスタジオを立ち上げ、長編に挑む事例が増えてきているという。自ら制作スタジオ「鉛筆で瞑想」を立ち上げて活動する1969年生まれのアン・ジェフン監督は、その潮流のパイオニアに当たるだろうアニメーション作家だ。
 そんなアン監督の日本初公開となる中編『にわか雨』(2017)が、2019年7月27日にシネ・リーブル池袋にて、東アジア文化都市2019豊島のパートナーシップ事業「韓国アニメーション上映会 夢見るコリア・アニメーション2019」で上映された。アフタートークではアン監督とともに、『この世界の片隅に』(2016)の片渕須直監督が登壇。両監督が互いのアニメーション観を語り合った、そのトークショーの模様をレポートする。

アニメーションで現実を描く


 片渕須直監督は『この世界の片隅に』をアニメーション化するにあたり、原作のこうの史代氏を「まるで自分が存在を知らなかった遠い親戚に突然出会ったような気がした」と形容した。日常の機微の描写、歴史資料の徹底した調査・考証、実験的な表現手法への挑戦――。
 その意味において、韓国のアン・ジェフン監督もまた、片渕監督にとって、別々の国で生まれ育った「親戚」のような存在と言えるのかもしれない。


 2019年7月27日、韓国アニメーションのイベント「夢見るコリア・アニメーション」にて、アン・ジェフン監督作『にわか雨』(2017)の上映、および心理学者である横田正夫氏の司会のもと、同監督と片渕須直監督によるトークショーが開催された。『にわか雨』の原作は、黄順元(ファン・スンウォン)氏が1959年に発表した短編小説。村の少年と都会から来た少女との心の交流、そしてその後の物悲しい結末を、詩情豊かな自然描写とともに描き出した韓国の国民的作品だ。アン監督は2014年より教科書に載る韓国名作文学をアニメーション化しており、この『にわか雨』はシリーズ第4作にあたる。そんな本作をめぐり、日本と韓国を代表するアニメーション監督2人が、その魅力からお互いの共通性までを存分に語り合った。


 アニメーションはしばしば、現実とは異なる空想的な世界を描き出すことが得意な表現メディアだと言われる。しかし『この世界の片隅に』で片渕監督は、歴史資料の徹底的な調査を通じて、当時の人々の日々の営みや文化風俗を細やかに再現、その時代の空気や人々の姿を、実在感をもって描き出した。
 アン監督もまた、本作の制作動機を「自分と同時代を生きている人たちや、その前の時代に生きていた人たち、そしてその暮らしの風景を記録しておきたかった」からだと語る。
 片渕監督による「アン監督はアニメーションを、現実を描くための術として使われている気がして、その部分が一番共感できるところだと思っています」という言葉は、2人に共通するアニメーション観を端的に表しているだろう。

司会の横田正夫氏(左から2人目)、片渕須直監督(中央)、アン・ジェフン監督(右から2人目)

日常芝居の魅力


 アニメーションの「動き」についても、両監督の間に通じ合うところを見い出せる。司会の横田氏は「お二方はともに、日常的な動きを再現することに力点を置いていると思います」と語る。それを受けアン監督も「ものごとを一つひとつ非常に細かく観察することを通じて、イメージを頭の中にストックし、それを作品に活かすようにしています」と述べ、「片渕監督の作品を観ていても、日本の人たちのちょっとした行動ですとか、風景ですとか、それから愛情のあり方ですとかがよく表現されている。そこから日本の歴史であったり、人のあり方といったりしたものがよく理解できる」と、日常芝居へのこだわりが生み出す説得力と、そこから喚起される作品世界の広がりを力説した。

 

 またアン監督は、劇場用作品の制作では俳優を雇い、その演技を参考に動きを構築しているという。「一般的な作り方ですと、アニメーションを制作し終わる頃になってはじめて、キャラクターの動きや特徴をつかむことになります。ですがこのやり方をすれば、先に動きや特徴の方針を決めることができるのです」と、自身の方法論を解説した。

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