東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

拡大する「2.5次元」の世界いわもとたかこ

 マンガはどのように新たな分野や場所にアプローチしてきたのか?  どのようにそのポテンシャルを広げてきたのか? 「マンガは拡張する」シリーズ(DOTPLACE)を連載する「マンガナイト」(代表:山内康裕)執筆陣が、多様な角度から考察する。
 第2弾は「拡大する「2.5次元」の世界」だ。急速に市場を拡大しつつある、マンガやアニメなど2次元作品を3次元のミュージカル等に舞台化した「2.5次元」。その系譜・変遷から展望まで、いわもとたかこが論じる。

(山内)

 

市場規模、18年は226億円

 

 マンガやアニメなど2次元の作品を原作とするストリートプレイやミュージカル(=2.5次元作品)市場の拡大が止まらない。2018年には紅白歌合戦にミュージカル『刀剣乱舞』の刀剣男士が出場し、ファンやお茶の間を驚かせた。最近は海外で公演する作品も少なくなく、様々なメディアでも特集されている。

 

 そんな2.5次元作品が、マンガやアニメ、ゲームのメディアミックス戦略の中でどのような意味を持つようになり、いかに巧みにあらゆるカテゴリーから観客を引き付けているのかをレポートする。

 

 「2.5次元舞台」とはここではマンガやアニメ、ゲームといった2次元の作品を原案とした3次元の、主にセリフと芝居で構成するストレートプレイやセリフと芝居に音楽や踊りが加わって構成するミュージカルのことを示す。ぴあ総合研究所によると、2018年の市場規模はチケット販売額だけで前年比44.9%増の226億円。定番の『ミュージカルテニスの王子様』(以下『テニミュ』)に加え、1990年代の人気マンガ『るろうに剣心』原案の『浪漫活劇 るろうに剣心』などの公演があった。2010年には19億円にとどまっていたことを考えると、ここ数年で大きく拡大したことがわかる。

 

 しかもこれはチケット販売額のみであり、公演グッズやDVDといったパッケージソフトの販売を考えると、幅広い意味での市場はもっと大きい。2019年には『舞台 幽遊白書』、2020年には『ミュージカル チェーザレ破壊の創造者』といった新作の上演が予定されており、市場拡大は続く見通しだ。

 

 特筆すべきは公演回数と動員数の伸びだ。18年の公演回数は前年比35.1%増の3695回、動員数は前年比24.7%増の278万人へといずれも大幅に増加した。タイトル数も197本と前年より26本増え、その中には初の舞台化という作品も多い。タイトル数よりも公演回数の伸びが大きいことを考えると、1タイトル当たりの公演回数が伸びていると考えられる。

 

 市場拡大を受け、企業の新規参入も相次いでいる。先日はインターネット関連サービスを手掛けるDMM.comが2.5次元舞台を手掛けるレーベル「DMM STAGE」を設立した。第1弾は2019年秋のゲーム『ペルソナ5』が原作の舞台『PERSONA5 the Stage』とされている。

 

 今やマンガやアニメ、ゲームが人気になると「次は舞台か実写映画か」とファンの間で話題になるほど。人気が出てきたマンガでは、同じくメディアミックスの手法のひとつであるアニメ化の前に舞台になることもある。もちろん、実写映画化同様、原作のイメージを壊しかねない展開に批判的な声はあるものの、2次元作品のメディアミックスの一手法として定着しつつあるといえる。

 

『テニミュ』『戦国BASARA』『忍たま』『刀剣乱舞』――契機になった作品たち

 

 2.5次元舞台の起源をどこにとるかは議論の余地がある。ただ、今のような成長市場として注目を集めるようになったのには、複数の作品のヒットが大きく影響している。

 

 まずは『テニミュ』。初演が2003年、公演数は200回を超える文字通りロングラン作品だ。演劇プロデューサーの松田誠氏は2019年5月27日号の『AERA』のインタビューで「一幕が終わって会場が明るくなったときの客席の熱気が、明らかに他の舞台と違いました。ロビーに出て興奮した様子で友達に電話している人もいた。これはイケる!と確信し、すぐに追加公演を決めました」と語っている。

 

 そして舞台『戦国BASARA』。カプコンのゲーム『戦国BASARA』を原案とした舞台で、定期的にイベントも開催している。その後、乙女ゲーム『薄桜鬼』の舞台化など、ゲームは2.5次元の原案のひとつとなっていく。

 

 『ミュージカル 忍たま乱太郎』もロングランとなった作品のひとつだ。もとは新聞連載のマンガ『忍たま乱太郎』。しかも舞台で主人公となるのは、原作やアニメ版の主人公でなく、原作ではわき役のキャラクターたちだ。物語も敵陣営の設定などを除けばほとんどオリジナルで、忍者ものということで派手なアクションシーンも人気だ。

 

 さらに『刀剣乱舞』の存在も大きい。もともとのパソコン向けブラウザゲームの人気が加速するのとほぼ同時期に舞台化が進んだ。しかもストレートプレイとミュージカルをわけて展開している。ゲームの設定が「ゲームプレーヤーが日本刀の付喪神を刀剣男子として呼び出し歴史改変をもくろむ敵と戦う」とシンプルな分、キャラクターや世界観の設定を崩さなければ、舞台用の物語は幅を広げやすい。それぞれの公演で物語の中心となる刀剣男子が入れ替わり、それぞれの歴史的背景に基づいたオリジナルのストーリーを展開している。

 

 こうした作品の興行面での成功を受け、公演数は増え、原作となる作品のジャンルも広がっている。『テニスの王子様』のような少年マンガに限らず、穂積氏の『さよならソルシエ』、細川智栄子あんど芙〜みん氏の『王家の紋章』(帝国劇場)、篠原千絵氏の『天は赤い河のほとり』(宝塚)といった少女マンガから、美水かがみ氏の『らき☆すた』のような日常系マンガ、田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』などSFまで、幅広いジャンルの作品が舞台になった。

 

 もちろんテニミュの初演前に、「マンガ・アニメ原作の舞台」はまったくなかったわけではない。

 

 1991年には『聖闘士星矢』、2000年には『HUNTER×HUNTER』の舞台が上演された。今でも繰り返し上演される『美少女戦士セーラームーン』のミュージカルは、1993年が初演。ゲーム原作では『サクラ大戦』で、歌劇ショウ(声優が原作で担当したキャラクターとして舞台にあがるミュージカル)が1997年から始まり、ミュージカルやストレートプレイにもなった。萩尾望都氏の作品については劇団「スタジオライフ」が長年舞台作品として上演してきている。

 

 さらに宝塚歌劇団の存在も大きい。池田理代子氏のマンガを原作とした、フランス革命が舞台の『ベルサイユのばら』は1974年が初演だ。宝塚は『ベルサイユのばら』以降も主に少女マンガを舞台の原案とし、最近はゲーム『逆転裁判』やマンガ『るろうに剣心』の舞台化も手掛けた。2018年には萩尾望都氏の原作をもとにした『ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』』が上演され、話題になった。

 

進む収益源の多様化――パッケージソフト、プロマイド

 

 収益源も広がってきている。

 

 そもそも一般的な演劇の公演では、公演のチケット販売とスポンサー収入を中心に収益を計算することが多い。一方2.5次元作品は、チケット販売だけでなく、パッケージソフト、関連グッズ、キャラクターに扮した役者の生写真(プロマイド)の販売に加え、関連イベントを開くことで収入源を分散化させている。

 

 最近は国内外の映画館でのライブビューイングにも積極的だ。生の舞台に比べれば1人あたりの単価は低いものの、チケット収入を押し上げることにつながっている。ライブやファンミーティング、関連イベントの開催といった、公演以外のファンとの接点も増えている。

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