東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

マンガを「学び」のツールに
――フランスにおけるマンガ事情レポート2019山口文子

 マンガはどのように新たな分野や場所にアプローチしてきたのか? どのようにそのポテンシャルを広げてきたのか? 「マンガは拡張する」シリーズ(DOTPLACE)を連載する「マンガナイト」(代表:山内康裕)執筆陣が、多様な角度から考察する。
 第1弾は「マンガを「学び」のツールに――フランスにおけるマンガ事情レポート2019」だ。フランスの「B.D.(バンド・デシネ)」、アメリカの「コミックス」、そして日本の「マンガ」――それらが共存し進化を遂げているフランスにおいて、日本のマンガがどのように受け入れられ発展してきたのか。2018年開催の大規模展示「MANGA⇔TOKYO」展を経てどのような変化を遂げたのか。その変遷から2019年の最新事情まで、パリ在住の脚本家・歌人の山口文子がレポートする。

(山内)

 

フランスにおける日本のマンガ市場

 

 パリにも日本のマンガ喫茶のような施設「Le Manga Café V2(ル・マンガカフェ・ヴェドゥ)」がある。今年に入って創業者のコルドヴァ・ベン氏にインタビューした際、マンガを巡る現状について興味深い話を伺った。

 

「Le Manga Café V2」のマンガ販売スペース

 

 まず整理しておきたいのだが、フランス・ベルギーをメインにヨーロッパで描かれる〈マンガ〉は「B.D.(バンドデシネ)」と呼ばれている。アメリカの「コミックス」のように、基本的にカラーでサイズが大きい。『タンタン』や『アステリックス』のような子供向け作品もあるが、緻密な画とストーリーに加え、アート要素が強い大人向けも多い。

 

 そしてフランスに流通している〈マンガ〉の種類は大きく分けて、ヨーロッパの「B.D.」、アメリカの「コミックス」、日本の「マンガ」、以上の三つだといえる。

 

 ただし注意しなくてはならないのが、フランスで「B.D.」というとき、ヨーロッパのB.D.単体を指すこともあれば、フランスの〈マンガ〉カテゴリ全般(B.D.+コミックス+マンガ)を指すこともある、ということだろう(そのためこのコラムでは区別をつけるために、後者を〈B.D.〉と表記する)。

 

 2004~07年にかけてフランスのマンガ市場は急成長したが、その後この波に乗ろうとした各出版社から新タイトルの翻訳本が大量にリリースされ、飽和状況に陥った。しかし現在、フランスで購入される〈B.D.〉の約半分はマンガだという。内訳にして、マンガが40~45%、B.D.が30~35%、コミックスは10~15%ほど。マンガ市場が停滞していた3年前は、フランスの〈B.D.〉のなかでマンガが占める割合は30%ほどだったそうなので、再び活気を取り戻しているのがわかる。

 

 その理由として、コルドヴァ氏の話や、現地での取材・実感を踏まえると以下のことが考えられる。

 

1.フランスの出版社の施策

流通させるマンガの数を以前より絞り、一つひとつの作品に対するプロモーションに力を入れるようになったのが功を奏した。

 

2.接点の増加

〈B.D.〉専門店だけでなく一般書店にもマンガが並び、市民図書館で借りることも可能になっている。マンガをテーマにした大小さまざまなイベントや展示も増加。日常的な接点が増えたことにプラスし、マンガを芸術価値の高い「作品」として見出す機会が増えた。

 

3.アニメ人気

観られるアニメ作品が増えたことで、そこを入り口にして原作であるマンガにさかのぼって読む人が増加した。

 

4.ファンの広がり

フランスのマンガ読者層は15~25歳がメインだが、かつてアニメやマンガに親しんだ世代が大人になり、自分の子供たちにもマンガを与えているため、ファン層はより広がっている。加えて、マンガで圧倒的な人気を誇る「少年マンガ」のジャンルを、少年・男性だけでなく、少女・女性たちも読むようになった。

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