東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

街でコスプレする、街がコスプレをする(前編)
――池袋からコスプレを眺めて谷頭和希

 2019年10月26日(土)〜27日(日)に開催される「池袋ハロウィンコスプレフェス2019」では、南北区道の一部などが歩行者優先道路となりコスプレイヤーたちがパレードを行うほか、様々なイベント企画が用意され、国内外から10万人以上が街に集う。
 このように、池袋がコスプレファンから愛され、「コスプレの聖地」とまで言われるようになったのは、いつ頃から、どのような理由によるものなのだろうか。
 都市論を中心としたエッセイストであり、幼少期より池袋周辺で育ちその街の変化を肌で感じてきた谷頭和希氏に、「池袋とコスプレ」というテーマでその秘密に迫ってもらった。

(編集部)

1:南池袋公園の風景

 

 日曜日の昼下がり、陽光が照りつける南池袋公園には、カップルから家族づれ、あるいはお年寄りまで、ありとあらゆる人々が集っている。青々とした芝生に寝っ転がっておしゃべりをする人々、テラスでコーヒーを飲みサンドイッチを食べる人々。周りが池袋の喧騒に包まれているとは思えないほど、ここにはどこかまったりとした、奇妙なほど平和な時間が流れている。

 

南池袋公園の様子

(撮影=谷頭和希、以下記載がないものはすべて谷頭撮影)

 

 私もまた、他の人々と同じように、テラスに座りながらこの独特な時間の流れを感じる。ふと、隣のテーブルに着物を着た男性が座る。見ると、手には大量の落語の独演会のチラシが。もしかするとこの人は落語家なのかもしれない。そういえばこの南池袋公園から少し歩けば、都内に4つある落語の定席寄席の一つである池袋演芸場がある。

 

 外国のような公園に、落語家。

 

池袋演芸場

 

 そんな不意をつかれたような、不似合いともいえる取り合わせをみて、ある当然のことに気がつく。

 

 つまり、「ここは池袋なのだ」、ということだ。外国の公園のように感じたとしても、ここはまちがいなく池袋にある公園で、そして私は池袋にいるのだ。

 

 そう思うと、今までは目に入ってこなかった、公園の風景を異化する様々なものが私の目に入ってくる。

 

 そもそも南池袋公園の立地はきわめて特徴的だ。公園の外を見渡してみればラブホテルが公園を取り囲むようにして何軒も立っている。ここは歓楽街のど真ん中なのだ。怪しげなマッサージ店や、キャバクラも無数にある。あるいは別の方向を見渡せば、本立寺(ほんりゅうじ)や盛泰寺(じょうたいじ)など、多くの寺があり、公園のすぐ裏手には墓地が異様な存在感で屹立している。

 

 平和な雰囲気を醸し出す南池袋公園のすぐ裏手には、それとは相入れないなにかがぴったりと張り付いているのだ。

 

南池袋公園のすぐ裏手にある本立寺。近くにあるとは思えないほど、閑静な雰囲気が漂っている

 

 そんな、公園の雰囲気を異化するものが目に入ってきたとき、不意に、「ここは池袋であり、そして池袋なのだ」という言葉が私の脳裏に浮かんできた。おしゃれで雰囲気が良い公園であるなら都内を見渡すだけでも多くある。しかし、それが墓場や風俗店やラブホテルとほぼ一体になるように存在している場所は、全国広しといえどもそう見当たらないのではないか。

 

 異なるものが一つの風景の中に共存している感じ。それを良いとするか、あるいは悪いとするかは置いておいても、これこそが、池袋という街の風景を描写するのにぴったりな言葉だな、とテラスに座りながら考えていた。

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