東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

中国におけるインディペンデント・アニメーションの状況はどうなっているのか
――新世代の個人作家たちとそれを育む新しい環境チェン・シー監督インタビュー

「映画祭」ではなく「フォーラム」であるわけ

――日本では作家同士・美大生同士がSNSを通じて繋がり合うことがあります。中国ではどのような形でクリエイター同士が繋がっているのでしょうか。

 

 若い世代の中にはネットを通じて知り合う人もいると思います。ただ私は古い世代の人間なので、他のインディペンデント作家たちとは主に海外の映画祭を通じて交流するようになりました。中国国内で言えば、中国インディペンデント・アニメーション・フィルム・フォーラム(CIAFF)というイベントも、全国のインディペンデント作家が交流する場として機能しています。
 なお、CIAFFは実質的には「映画祭」なのですが、あえて「フォーラム」と名乗っています。それは「映画祭」と冠すると、政府の審査を受けなければならないという事情からです。その審査は非常に厳格で、プログラムの全作品を事前に提出する必要があります。そして残念ながら、上映禁止になる作品も多々出てきます。そのため名目上、「映画祭」ではなく「フォーラム」と名乗ることで審査を逃れているのです。

 

――実際、中国のアニメーション映画祭は長続きしない印象を持っています。

 

 質のいい作品をセレクトできないという問題もあります。政府は自国で開催する国際映画祭で優れた作品を上映してほしいという思いからも審査を行っているのですが、質を判断する能力がないため、結局は玉石混淆の作品が集まってしまい盛り上がりに欠けてしまう。そんな中、CIAFFは、海外作品の上映の比率も多いですし、中国人のものでも海外で学んだクリエイターの作品が割合として多く、一定の質を担保することができています。

 

――日本ではある時期以降、大学のアニメーション教育が充実した反面、経済的・時間的な理由から結局、学生の多くは卒業後も継続して個人制作を続けることが困難な状況にあります。中国の短編アニメーション作家はいかがでしょうか。

 

 状況は同じです。海外でアニメーションを学んだ留学生たちが中国に帰国しても、商業ベースでないアニメーションを作り続けることは非常に難しい状況にあります。私のように教育に関わりながらか、あるいはアニメーション以外の仕事をしながら個人制作を続けるケースがほとんどです。
 またそれはアニメーションスタジオも同様です。中国の伝統的なアニメーションを長年手がけてきた上海美術映画製作所も、芸術か商業かという二択を迫られ、今では商業ベースのアニメーションを制作しています。

 

――ヨーロッパでは助成金文化によって個人作家の活動が成立している面があります。チェン・シー監督は国家や自治体から助成金をもらうことはあるのでしょうか。

 

 私はもらっていません。作品を制限されたくないからです。政府の考える方向性に合う中国のイメージを宣伝するような作品以外、助成金を得ることは難しいという現実もあります。

 

――中国は大きな変化の時期を迎えていると思います。人々の考え方も変わってきていると感じるでしょうか?

 

 変化も進歩も感じます。経済が大きく発展し、チャンスが増えることで、早くお金持ちになりたいと願う人々が増えました。そうした人々は、コツコツと何かをやることよりも、効率やスピードを追求しています。ここ10年はずっとそうですね。進歩という点では、海外の意見がどんどん入ってくることで、人々は伝統的な規範に縛られない、多様な価値観を身につけるようになった点でしょう。

 

アン・フーとの共同監督は続く……

――最後に、「としマンガ としアニメ キャラバン vol.1」で上映したチェン・シー監督の『大寒 The Poem』『處暑 Swallow』『寒露 A Fly in the Restaurant』について、一言いただけますか。

 

 私は二十四節気という、1年を24等分した季節を表わした名称をタイトルとした作品群を手がけてきました。この三作品もそうです。二十四の季節は変化に富んでいて、それぞれに特徴を備えています。それはまるで人生を比喩的に示しているかのようであり、そういった言葉を生み出した中国人の歴史的な感情を、短編アニメーションで表現したいと思ったのです。

 

――またチェン・シー監督の作品では、中国の過去の美術・芸術などがよく引用されています。それはなぜでしょうか。

 

 私と共同監督であるアン・フーに共通していた点として、現代の文明にはあまり興味が沸かず、過去の世界に心震わされることが多かったためです。もちろん私は今回、飛行機に乗って日本へ来ました。現代はそのような便利なものであふれています。しかし神聖なものは、昔から変わっておらず、それらを見ていると、今を超えた部分が見えてくるのです。

 

――そんなアン・フー監督は、2017年に病気で亡くなられてしまいます……。

 

 彼の死は私のキャリアにおいて最も大きな衝撃でした。二人で一緒に制作し始めたころはケンカばかりしていましたが、今ではその時間をとても恋しく感じています。作品では私が人物を担当し、アン・フーは背景を担当していましたが、病気が重くなってからは私が一人で手がけるようになりました。『寒露』は2018年に完成したため、アン・フーは本編を観ることなく亡くなりました。もし彼が観ることができたら、私にどんな言葉を伝えるのだろうかと、今でも考えてしまいます。
 ただ私とアン・フーが二人で考えたアイディアはまだまだ残っています。現在制作中の作品もアン・フーと一緒に構想を練ったものです。これからも二人で手がけた作品はまだまだ続いていきます。

 

聞き手:土居伸彰、構成:高瀬康司、高橋克則

 

チェン・シー Chen Xi
幼少期からマンガを描き始め、多くの中国の雑誌に掲載。2010年に北京電影学院の修士課程を修了。TVアニメーションおよびインディペンデント作品の監督としての経歴を持つ。2010年、広島国際アニメーションフェスティバルにて国際審査員特別賞を受賞。「第5回中国インディペンデント・アニメーション・フィルム・フォーラム(CIAFF)」ではキュレーターを務める。現在は北京電影学院で教鞭を取る。

チェン・シー監督のアニメーションとマンガは、東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業「マンガ・アニメ区役所」内「日本・中国・韓国のマンガ・アニメ作家たち 第1期」(https://culturecity-toshima.com/event/3698/)にて展示中。6月27日まで。

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