東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

韓国におけるインディペンデント・アニメーションの状況はどうなっているのか
――「花開くコリア・アニメーション」のチェ・ユジンが語る歴史的変遷チェ・ユジンインタビュー

韓国におけるインディペンデント・アニメーション・シーンの変遷

 

――ここからKIAFAの活動とともに韓国のインディペンデント・アニメーションの状況の変遷を確認していきたいのですが、まずは簡単に組織の解説をお願いします。

 

 KIAFAは2004年12月に設立した個人アニメーション作家のための団体です。作品の権利の保護活動や、配給、制作支援、そして「インディ・アニフェスト」という韓国のインディーズ・アニメーションを紹介する映画祭の運営を行っています。

 

インディ・アニフェスト

 

――1985年からTVアニメが作られ始めたというお話でしたが、その後、韓国でのアニメーション制作に関する転機は何ですか?

 

 1995年頃から大学にアニメーション学科ができ始めたことですね。これはディズニーによる影響です。というのも、当時の韓国では「アメリカでは自動車を売るよりもアニメーションを作ったほうが利益が出る」という話がされており、なら自分たちでも国産のアニメーションを作りましょうと。それ以前も下請けとしてであればアニメーション制作は盛んだったのですが、それはそれで継続しつつも、自分たちで企画から制作まで手がけることで産業として盛り上げようとしたんです。特に韓国政府は常に、国民が従事する仕事を作ることを課題としているため、その意味でもアニメーション制作のように大量の人員が必要な産業は最適でした。その結果、大学にアニメーション学科が次々と設立されるようになったんです。

 

――文化事業としてではなく、経済政策の一貫としてアニメーションに力を入れたわけですか。

 

 はい、そしてそのことが結果的に、インディペンデント・アニメーション作家を生み出すことに繋がりました。というのも、まず韓国の人件費の高騰から、海外からの下請け仕事が他のアジア諸国に回るようになりました。また国産アニメーションの分野でも、子ども向けのプログラムばかりという状況になってしまっていた。だからアニメーション学科の卒業生が、自分たちが面白いと思える作品を手がけるには、短編作家になるしかなかったんです。だから短編アニメーションに対する政府からの支援は極わずかでしたが、シーンは少しずつ成長していきました。

 

――短編制作に対する支援にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

 主には制作支援金ですね。前政権は、支援制度に対する風当たりが強く、制度がなくならないように守らねばならない状況でした。しかし、現政権に変わってからは、短編作家が次の段階に行くための新たな支援制度を立ち上げようと動いています。
 またかつて韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が、カナダのNFBをモデルにしたアニメーション製作スタジオを運営していたことがありました。3年ほどでなくなってしまったのですが、それをやり直しましょうという相談もしています。実際、今活躍している作家もそのスタジオ出身者が多く、大きな成果を出していたんです。

 

――そのスタジオはどのように運営されていたのでしょうか?

 

 スタジオのスペースと政府の雇った管理人が提供され、制作支援金が出ていました。その金額も大きかったので、少し長めの作品も制作可能で、個々の完成度も非常に高いものでした。中編を3本ほどでまとめて、オムニバス作品として劇場公開もしていました。

 

――また、国産のTVアニメ枠があるという話でしたが、KIAFAも短編のTV放送に関わっていますよね。

 

 はい、KIAFAの配給する作品の放映権をTVに販売することが一番の収入源です。TV局としては安い金額ですが、KIAFAにとっては大きな額です。作家が作品制作だけで生活していけるようなシステムを作るための一歩としても捉えています。

 

――現状、制作だけで生活できている個人作家はいるのでしょうか?

 

 ほぼいないでしょうね。制作支援金がもらえた年は大丈夫でしょうが、毎年もらえるものではないので、フリーランスとして仕事をやりながら合間に制作を続けている作家がほとんどだと思います。

 

インディ・アニフェストとアジアのネットワーク

 

――またユジンさんがフェスティバル・ディレクターを務める「インディ・アニフェスト」はもともと、韓国の個人作家に上映の機会を与えるため、国内コンペを中心にしていた映画祭ですが、最近、アジアコンペも作られました。コンペを拡大したのはどういうきっかけだったのでしょうか?

 

 この映画祭が今後どう成長していくかを考えたとき、ヨーロッパやアメリカが中心の映画祭はすでに数多く存在する中で、アジアのコンペティション部門を作ってみるのはどうかと思い立ったんです。距離的に近いにもかかわらず、アジア同士でネットワークを作れる機会がこれまで少なかったため、そういう場にできたらいいなと。

 

――国際的なアニメーション映画祭は、そのほとんどがヨーロッパにあるせいで、ヨーロッパのコミュニティとイコールになってしまっていますからね。アジアでネットワークを作る試みは意義深いと思いました。2008年から毎年行っている関連事業「花開くコリア・アニメーション」という日本巡回上映会も、そうしたネットワーク作りの一環ですよね。

 

 そうですね。「花コリ」に関しては三宅敦子さんのお力添えが大きいと思います。かつてオーストラリアや香港でも開催したことがありますが、継続できなかったのは、一緒にやってくれる仲間がいなかったためです。東京には三宅さんがいて、名古屋にもシネマコリアという団体があり手助けしていただけるからこそ実現できている上映イベントです。

 

花開くコリア・アニメーション

 

――韓国政府からは、そうした海外へのプロモーションに対しても支援金が出ているのでしょうか?

 

 「花コリ」に関しては、日本語字幕政策に対する支援金などが出ています。しかし基本的には、新しく海外でイベントをやるとなると、予算申請から始める必要がありますね。
 ただ、最近は低い予算では事業を行わないようにしています(笑)。というのも、その範囲で無理にやりくりして開催してしまうと、いつでもその予算でできると判断されてしまうので……。

 

――政府との戦いの歴史があるわけですね。

 

 はい、だから近年は直接、議員のところへ予算の掛け合いにいくようなこともよくしています。話したいことがあったら担当者のところへ話しに行き、もっと上の人と話したほうがいいと思えばそうお願いするようにしたりと、そういう地道な活動が、支援政策にとっては大切なんだと強く思いますね。

 

聞き手:土居伸彰、構成:高瀬康司

 

チェ・ユジン Choi Yu-jin
大学で歴史、大学院で文化研究を学び、2006年より韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)にて活動。現在、インディ・アニフェスト執行委員長およびKIAFA事務局長として、インディペンデント・アニメーションの配給や上映、各種政策事業などに従事している。

KIAFAが主催となって、東アジア文化都市2019豊島のパートナーシップ事業として開催される「夢見るコリア・アニメーション」は、7/27にシネ・リーブルにて開催。アン・ジェフン監督と片渕須直監督の対談なども行われる。

Related Posts