東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

「グルメマンガ」の世界
――“豊食”と“飽食”の日本を記録したメディア旨井旬一

販売面でもコンビニは強し

 

 コンビニコミックで当初多かった総集編から、新作への変遷は、コンビニという圧倒的な販路を生かした日本社会ならではの“発明”だ。

 

 コンビニ向けのグルメマンガ雑誌の体裁はB6判の『食の鉄人たち』、B5判の『食漫』を経て、A5判で2010年に登場した『思い出食堂』(少年画報社)に来て盛り上がりを見せることになる。

 

 『思い出食堂』は、『おはよう! スパンク』で知られる、たかなししずえ氏が昭和の家族の食卓を描く『しーちゃんのごちそう』などを中心に、新作読み切りが20本近く詰まっているスタイルである。2カ月に1冊のペースで、19年8月までに47冊を刊行。同社は『みんなの食卓』『ひとりごはん』も出している。

 

 他に『ひとりでほっこりくつろぎごはん』(ガイドワークス)や、『たそがれ食堂』(幻冬舎)、『ひとりで食べキュン! 女子ごはん』(はちどり)など、後続が次々と現れた。雑誌形式でありながらどこからでも読める読み切りを主体とし、人気がある作品は単行本としても売り込む。

 

 既に『いただきマス幸せごはん』(芳文社)のように、18冊で休刊になったものもあるが、『俺流! 絶品めし』(ぶんか社)のように、17年に登場した新顔もある。

 

 この『俺流! 絶品めし』が凄かった。2013年に掲載紙の休刊で連載が終了した『蒼太の包丁』(実業之日本社、末田雄一郎:作、本庄敬:画)が、『新・蒼太の包丁』として復活。

 

 『味いちもんめ』(小学館、あべ善太:作)を描く倉田よしみ氏が新作を連載している上、先述の『一本包丁満太郎』や、対決グルメマンガの元祖ともいえる『包丁人味平』(集英社、牛次郎:作)のビッグ錠氏が新連載を構えたのだ。

 

 書店数は18年5月時点で約1万2000店、10年前でも約1万7000店(19年6月13日付、日本経済新聞記事から計算)であり、販売機会としてのコンビニが遥かに上回っている。

 

 コンビニの数は全国で55675店舗(19年6月、日本フランチャイズチェーン協会)という。仮に1店舗に5冊置いたとして、27万8375部。マンガ雑誌で言えば、『週刊少年サンデー』(小学館)の27万7500部(19年1~3月、日本雑誌協会)に並ぶ勢いとなっている。

 

 2017年には、57冊のコンビニ向け専門誌の発行を確認している。

 

 『俺流! 絶品めし』は、セブン-イレブンでしか見かけたことがないので、販路を絞っている可能性がある。それでも2万1005店(19年7月末)に置かれている。

 

原作者の居る作品との好相性

 

 ここでこれまでに示してきた作品を整理する上で、原作者の重要性を指摘しておきたい。

 

 『包丁人味平』(集英社、牛次郎:作、ビッグ錠:画)、『美味しんぼ』(雁屋哲:作、花咲アキラ:画)、 『味いちもんめ』(小学館、あべ善太:作、倉田よしみ:画)、『孤独のグルメ』(扶桑社、久住昌之:作、谷口ジロー:画)と、原作者が居る作品が目立つ。

 

 どれほど多いのかうまく比較する対象を見つけることは難しいが、酒全般を除いて料理のジャンルとしては最多の部類に入る22作品が確認できる、鮨・寿司マンガを並べてみる。前出の『音やん』(中村博文:著)は単著となっているが、多くの作品に原作、または監修などが付いていることが分かる。

 

・『味なおふたり』『新・味なおふたり』(芳文社、東史朗:作、藤みき生:画)
・『いなせ鮨』(芳文社、火野俊平:作、森義一:画)
・『江戸前鮨職人 きららの仕事』『江戸前鮨職人 きららの仕事 ワールドバトル』(集英社、早川光:作、橋本孤蔵、画)
・『江戸前の旬』『江戸前の旬~旬と大吾~』『江戸前の旬外伝 虹のひとさら』『北の寿司姫』『寿司魂』(日本文芸社、九十九森:作、さとう輝:画)
・『おすもじっ! ◆司の一貫◆』(小学館、鹿賀ミツル:作、加藤広史:画、京都祇園 鮨まつもと:協力)
・『元祖江戸前 寿し屋與兵衛』(双葉社、白川晶:作、内山まもる:画)
・『喧嘩寿司~元祖すし職人 華屋與兵衛~』(ホーム社、白川晶:作、山本貴嗣:画
・『ごほうびおひとり鮨』(集英社、早川光:作、王嶋環:画)
・『将太の寿司』『将太の寿司 全国大会編』『将太の寿司2 World Stage』(講談社、寺沢大介:著)
・『すしいち!』(リイド社、小川悦司:著、東京すしアカデミー:監修)
・『寿司屋のかみさん うちあけ話』(少年画報社、佐川芳枝:作、桑佳あさ:画)
・『鉄火の巻平』(芳文社、大林悠一郎:作、たがわ靖之:画)
・『花寿司の幸』(双葉社、村上茂雄:著)
(※最初のタイトルの50音順)

 

 寿司作品が多くあるのは、地域や季節、時代によって、魚の呼び方や扱い方、食べ方が異なることが大きい。一方で読者の知識の幅が広がっている現状で、他の作品との重複を避ける必要もあり、原作者にかかる力が大きくなる。

 

 中でも長寿作品となっているのが、8月に99巻が発売になった『江戸前の旬』。1話完結が多いスタイルで、銀座の店舗を中心とした人情物の作品だ。まれに百貨店へのイベント出展を掛けて勝負を挑まれるなどの対決要素が含まれるものの、遺恨がないすっきりした読み心地がある。スピンオフと言える作品も多く、銀座で寿司が食べてみたくなる。

 

 高級寿司店はせめて作法だけでも案内してくれる人が居れば良いが、なかなかそうもいかないことが多い。『ごほうびおひとり鮨』は実在の店舗で味わった様子を紹介しながら、最後には会計金額まで示してくれるノウハウものだ。設定にもひねりがあり、主人公の女性ひとりでしっかりいただく。高級寿司が身近に感じるサポート本としても良い。

 

 原作者の早川光氏は、『江戸前鮨職人 きららの仕事』の他、ホテルのパティスリーで最新鋭の技法に触れる『アントルメティエ』(集英社、きたがわ翔:画)や、抹茶好きのフランス人と暮らすことになる女性が導かれていく『茶の湯のじかん』(集英社、pikomaro:画、木村宗慎:監修) などを幅広く手掛ける。

 

 原作者の記載がない寺沢大介氏の作品だが、『ミスター味っ子』の連載当時は「担当編集者が毎週、何十というアイデアを持ち寄って掲載する内容を決めていた。ストックは1000に近いくらいあったのではないか」という(19年3月30日、「マンガのレシピ」トークショーより)。

 

 『クッキングパパ』(講談社、うえやまとち:画)のように自ら料理する作者も存在するが、高度化する調理技術や幅広い食材・料理の情報を集めながら連載を続けることは非常に難しいことが伺える。原作者の居る作品がグルメマンガには多い背景がそこにある。

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