東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

新聞でアニメはどう語られてきたのか(後編)
――朝日新聞・小原篤記者が語る、アニメと公共性小原篤インタビュー

 アニメがメディアで取り上げられることが、珍しい事態ではなくなって久しい。それはテレビ番組や一般誌は言うまでもなく、よりアニメに縁遠いと思われてきた新聞においても同様だろう。
 ではアニメは「新聞」というマスメディアにおいて、いつから、どのように語られてきたのか。90年代から朝日新聞紙上でアニメの記事を先導し、2007年より「小原篤のアニマゲ丼」という記名コラムを毎週連載中でもある朝日新聞の小原篤記者に、「アニメと新聞」というテーマでお話をうかがった。

 

聞き手:高瀬康司、土居伸彰、構成:高瀬康司、高橋克則

「アニマゲ丼」のチャレンジ

 

――「アニマゲDON」開始以降で、アニメをめぐるエポックメイキングな出来事というと何になりますか?

 

小原 2001年の『千と千尋の神隠し』ですね。日本歴代興行収入1位の記録はいまだに破られていませんし、それ以上に海外の映画祭で評価されたことのインパクトがすごく大きかったんです。02年にベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞、03年に米アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞したことで、「日本のアニメ作家がついに世界で認められた」という熱気が広く感じられ、社内も「この快挙を盛り上げていこう」という雰囲気で、アニメをめぐる景色がまた一つ変わったという印象を受けました。
 いわゆるアート系の作品では、03年に山村浩二監督が『頭山』でアヌシー国際アニメーション映画祭のグランプリを獲得したときに、全国紙の1面で取り上げました。アヌシーの長編部門では、それ以前も宮崎駿監督の『紅の豚』や高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』がグランプリを受賞していましたが、花形である短編部門で日本人の作品が頂点に立つのははじめてのことでしたからね。
 過去にも海外で賞を取った作品はたくさんありましたが、雰囲気を一変させたという意味では、ベルリンとアカデミー賞の『千と千尋』、アヌシーの『頭山』の存在は決定的でした。

 

――その後、07年11月からは『asahi.com』、現在の『朝日新聞デジタル』で再び連載コラム「小原篤のアニマゲ丼」が、今後は週一で始まります。どういった経緯だったのでしょうか?

 

小原 もともと『asahi.com』は紙面記事の転載がメインでしたが、独自記事を作る方針へ転換することになり、そのための要員として、私を含めて大勢の記者が異動になったんですね。そこで「Webではアニメやマンガが人気だから、そちらをよろしく」と、自然な流れでお願いされました(笑)。
 タイトルに私の名前が入っているのは、編集部側からの提案です。前身の「アニマゲDON」のおかげで、一部ではアニメ好きの記者として名が通っていたため、「あなたの名前を出して書けばいいんじゃない?」と。なので新しい「アニマゲ丼」では“私”を前面に出していくことにしました。

 

――しかし新聞は原則的に、“私”というものをできるだけ見せないように情報発信を行うメディアですよね?

 

小原 はい、基本的には客観風の文章が求められます。なので夕刊に連載していた元の「アニマゲDON」は、ゲーム特集はゲーム好きの記者に任せていたこともあり、自分以外の人が書いてもうまく馴染むように、文章のトーンはニュートラルにしておく必要がありました。
 しかし新しい「アニマゲ丼」は、紙面ではなくWeb掲載で、しかも「小原篤」という名前を冠したということで、そうではない、普段はできないことを試してみたいと思ったんです。それで「評論とインタビューを織り交ぜたコラム」という、ほかではない形式にチャレンジしました。

 

――慣例では、評論なら評論、インタビューならインタビューときっちり分けられていますからね。「アニマゲ丼」のように、インタビューを行い、その取材内容をコラムの中に組み込むという形式は、他のメディアではそうそう許されないと思います。

 

小原 しかも批判的なことを書く場合もありますからね。内心怒られるのではないかとよくドキドキしていますが(笑)、その分、批判を含むときはできるだけ作品を2回観て、初見時に抱いたネガティブな印象が自分の勝手な思い込みではないかどうか、あらためて確認するように気をつけています。

 

――ちなみに、以前に小原さんのインタビューに立ち会った際、テープレコーダーを回されていなかったのが印象的でした。その点も新聞記者ならではなのかなと感じます。

 

小原 現場でも驚かれることが多いですね。基本的には録音はせず、ノートにメモを取るだけです。もともと新聞の場合、載せられる文字数が限られているので、雑誌のように何千字何万字という長さでまとめるわけではありません。ある程度大きく掲載する場合でも、相手の発言はカギ括弧を使って数カ所引用するだけで、ほとんど地の文で構成することが大半ですからね。取材しながら「この言葉があれば記事が成立するぞ」と判断する経験を積んできているので、取り立てて録音する必要がないんですよ。

 

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