新聞でアニメはどう語られてきたのか(後編)
――朝日新聞・小原篤記者が語る、アニメと公共性小原篤インタビュー
新聞記者として伝えたいこと
――小原さんは連載コラムと並行して、新聞の紙面でもアニメの記事を書かれ続けてきました。こちらに関しての方針は?
小原 まず98年に「アニメ記者宣言」をした頃は、「すべてのアニメをカバーしてやるぞ!」という心意気でいました(笑)。新聞社は数年ごとに異動があって、人がどんどん入れ替わっていきます。紙面の偏りをなくすためです。音楽担当であれば、J-POPが好きな記者がいれば、ロックが好きな記者や、ジャズが好きな記者もいる。同じように映画担当もエンタメ系だったりアート系だったりカルト系だったりと、記者によって好みが違っているので、中立性を保とうとしても、その人の色が出ることは避けられません。なので異動で定期的に担当者を入れ替えることで、全体としての多様性を担保しているわけです。
しかしアニメを担当する記者は私しかいなかったので、一人であらゆるジャンルを網羅しなければいけないと思ったんですね。それこそ新作/旧作、国内/国外、アマチュア/プロを問わず、すべての作品を取り上げたいと。なので当初は、モットーとして「『カードキャプターさくら』からノルシュテインまで」を掲げていました(笑)。
――新聞記事と、“私”を出した連載コラムとでは、意識の違いなどもあるのでしょうか?
小原 いえ、究極的には気持ちは一緒です。どちらも「こんな作品なんだ」と伝え「それなら観てみようかな?」と思ってもらうことを目指しています。
確かに一般的なライターであれば、自分の考えについて語るコラム記事と、作品のプレビューやインタビューとでは意識が違うのかもしれません。でも私は、編集部からの注文を請けて書くライターとは違い、新聞記者なので、紙面の記事もどの作品を選んでどんな内容にするのか、というところから自分の判断で決めることができるんですね。つまり記事の企画を立てた時点ですでに、コラムのように考えが反映されているわけです。
そもそもインタビューであっても、自分の解釈に基づいたうえで質問をして、自分で原稿をまとめているわけですから、実は私の主観や意図が多分に入っているものなんですよ。
だから文章のテイストこそ違っても、最終的な「自分なりの切り口でもって、作品の面白さを読者に伝える」という目的はコラムも新聞記事も変わっていません。それは批判的なコラムを書くときも同じで、それをきっかけに作品に興味を持ってもらえたらいいなという気持ちを忘れたことはないですね。
――また新聞は一メディアという立場を超えて、社会的役割を担わされる存在でもあると思います。小原さんがアニメについての記事を書かれる際、そうした公共性について意識されることはありますか?
小原 90年代の頃は、アニメのプレゼンスがまだ低かったので、社会と関連付けることは意識していました。アニメに興味がない読者にとっても「アニメは取り上げる価値があるものなんだ」と思ってもらえるような記事である必要があるなと。
しかし現在では、すでにアニメは一つの文化として、取り上げることの意味付けを考える必要がないほどに浸透したという感覚があるので、社会性を意識するのは何かよからぬ動きがあると感じたときぐらいですね。東京都の条例案で「非実在青少年」というワードを使って表現規制がされそうになったときは取り上げましたし 3 、改正案が成立して新基準で不健全図書の対象になった作品についてもどこが問題になったのかを取材しました 4 。その点では、新聞記者としての社会的な役割も、折に触れて果たしているつもりです。
――ありがとうございます。新聞記事はもちろん、「アニマゲ丼」は週に一度というハイペースで、10年以上も継続されている点でも貴重な連載ですので、これからのご活躍も楽しみにしております。最後に今後の展望などありましたら。
小原 「アニマゲ丼」は長く続いたことで、最近では自然と「時代を記録するアーカイブ」としての役割が生まれてきたと感じています。特に『朝日新聞デジタル』のコンテンツとしては例外的に、有料ではありますが、バックナンバーをすべて公開していますからね。遡ってもらえれば、その時期にあった作品や出来事がわかるようになっているんです。
またその点では、故人の追悼も意識的に取り組んできました。新聞の訃報はのちに参照されることが多く、亡くなった方がどんな経歴を歩み、どんな仕事を残したのかを確認するための基準にもなる重要なものなんですね。しかし紙面では割けるスペースがどうしても限られてしまいます。それに対して文字数を気にせず書けるWeb連載であれば、どんな業績を遺したのかを細かく振り返ることができますし、もし私が過去に取材をしていた方であれば、個人的な思い出などもそこに加えることができる。
亡くなった方がどんな仕事をしていて、生み出した作品のどこが評価されていたのか。そういったことを書き残して伝えていくことも、私が果たさなければいけない役割だと思っています。
聞き手:高瀬康司、土居伸彰、構成:高瀬康司、高橋克則
- 3 参考記事:「非実在に実在する非実在」
- 4 参考記事:「都庁の人に聞いてきた!2」
小原篤(おはら・あつし)
1967年、東京生まれ。1991年、朝日新聞社入社。2019年現在は大阪本社・生活文化部所属。1999年より、ニュースサイト『朝日新聞デジタル』にて、アニメをめぐるコラム「小原篤のアニマゲ丼」を連載中(毎週月曜更新)。著書に『1面トップはロボットアニメ――小原篤のアニマゲ丼』(日本評論社、2012年)。