東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アニメーション“撮影”2019(前編)
――二大話題作の撮影監督が解説する、その基礎と魅力泉津井陽一+津田涼介 対談

実写素材が生む多様なエフェクト


――実写素材の活用も含めて、津田さんのお仕事をいくつかご紹介いただけますか。


津田 TROYCAの作品ではないのですが、カラーを抜けて最初に撮影監督をやった『いなり、こんこん、恋いろは。』(2014)では、京都が舞台の作品ということもあり、和紙を素材に使ったエフェクトや効果を作りました。また監督から「伏見稲荷は高い木が多く、レンズの羽っぽい木漏れ日が印象的だったのでそれを表現したい」というオーダーを受け、風が強い日に、揺れている木々を下から写真撮影し、それを加工した処理も乗せています。


泉津井 確かに『いなり、こんこん、恋いろは。』の木漏れ日の表現は、何気ないカットでも形状のランダム性が高くて、普通ではない作り方をしていることは見てすぐわかりました。
 同年に津田さんがビジュアルエフェクトを務められた『アルドノア・ゼロ』(2014・15)も、お話が好きでずっと観ていましたが、やはりエフェクトが毎回すごい。


津田 ありがとうございます。地球側は技術的に現実の延長上、火星側はファンタジーというコンセプトで作成していましたが、特に地上でのバトルシーンの処理には時間と労力を注ぎ込みましたね。


泉津井 兵器描写にリアリティがあって、射撃や排煙などエフェクトの処理がすごく難しいだろうなと思いながら観ていました。


津田 バトルシーンのエフェクトは、Video Copilot社のAction Essentialsという実写の素材集を加工して使ったり、3ds MAXで作った煙素材を全部リタイミングして歩くたびに土煙があがるように配置したりと工夫を凝らした点です。


――次に撮影監督をやられたのが『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(2015)です。


泉津井 他の作品と比べるとノーマルな状態のときもかかっているフィルターが強くて、エッジがやわらかな作品だという印象を受けました。


津田 この作品から、bry-fulさんに依頼して、線を細めるプラグインを作っていただき使い出したので、その影響があるのかもしれませんね。


泉津井 最近は線に処理を入れる作品が多いですよね。ラフな線にしたり、昔のトレスマシンで写したような線にしたり。


――続く『Re:CREATORS』(2017)も非常に撮影処理に力の入った作品でしたがいかがですか?


津田 ビジュアルエフェクトでの参加ですが、作品がマーベルの実写映画『アベンジャーズ』(2013)のような複数の異なる作品世界が交錯するバトルものだったため、キャラクターごとに、どういう世界観の人物で、エフェクトはどういう方向性なのか、アイデア出しにとても苦心しました。ただ福澤瞳さんという『ヱヴァQ』などでご一緒した方が素晴らしいエフェクトを次々と作ってくださり、とても助けられましたね。それもあって、自分でエフェクトを開発するというよりは、撮影監督とともに、スタッフからの上がりに対して「こうしてほしい」「ああしてほしい」とディレクションを行う立場で臨めた作品です。
 また『Re:CREATORS』の撮影処理では、作画を生かす方向でプラスアルファしたい、いかにもデジタルで足したエフェクトに見えない映像にしたいと考えていたんですね。作画かデジタルか見分けのつかない表現を目指したいなと。


泉津井 そういう処理になっていましたよね。派手な映像の中でも、撮影処理が立ちすぎていないというか。元の作画に自信がないとできない贅沢な作りなわけですが(笑)。


津田 その点でも、カラーでの経験が大きかったと思います。スーパーアニメーターが集う現場なので、それを撮影でぶち壊すのはもったいないですから、作画を活かすという前提のうえに、作画の表現に対抗できる撮影処理を探る、というバランス感覚を学ばせてもらえたなと。そこを突き詰められた作品という意味で、『Re:CREATORS』は自分の中でも集大成的な一作になりました。

 

図1:作画ブラシ(『Re:CREATORS』より)

「通常、一括で飛ばしてしまうことの多い作画のブラシですが、『Re:REATORS』では撮影で細かくマスクを切り、作画の方向に合わせてボカしを入れることで、そのニュアンスを消してしまわないようにしています」(津田)

 

図2:透過光マスク(『Re:CREATORS』より)

「作画のフォルムが素晴らしかったので、ブラーをかけて崩してしまうのではなく、元の形のまま使用しています。情報量の少なさは、オレンジから赤への熱感のグラデーションで補いました」(津田)

 

図3:爆発と煙(『Re:CREATORS』より)

「爆発の透過光は、炎部分にテクスチャを入れて情報量を増やしているものを見かけますが、作画に合わせて動かさないと、いかにも貼り込んだ感じが強く出てしまいます。それは個人的に好きではないので、透過光の色分けと、透過光内のグラデーションで調整をしました。撮影でタタキも足しています。 煙に関しても、エッジをボカすのではなく、作画のフォルムを活かそうと、煙を拡散させたり、中の塗り分けに対してグラデーションをかけたりしてニュアンスを作っています」(津田)

 

聞き手・構成:高瀬康司

 

後編へつづく】

 

 

泉津井陽一(せんづい・よういち)
撮影監督、コンポジッター。『なつぞら』(2019)アニメーションパート撮影監督。1997年よりスタジオジブリにて「CG」「エフェクト」「撮影」などを担当。『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)、『千と千尋の神隠し』(2001)、『ハウルの動く城』(2004)、『風立ちぬ』(2013)、『かぐや姫の物語』(2013)などを手がける。ジブリ外では『電脳コイル』(2007)で撮影監督を務めたほか、『花とアリス殺人事件』(2015)、『宝石の国』(2017)、『ニンジャバットマン』(2018)などに参加。著書に『OpenToonzではじめるアニメーション制作』(工学社、2016年)がある。


津田涼介(つだ・りょうすけ)
撮影監督、ビジュアルエフェクト。『天気の子』(2019)撮影監督。東京造形大学卒業後、AICに入社。その後カラーを経て、TROYCA作品に多く関わる。『天体戦士サンレッド』(2008)コンポジットディレクター、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)エフェクト、『いなり、こんこん、恋いろは。』(2014)撮影監督、『アルドノア・ゼロ』(2014・15)ビジュアルエフェクト、『君の名は。』(2016)撮影、『Re:CREATORS』(2017)ビジュアルエフェクト、『アイドリッシュセブン』(2018)撮影監督など。

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