東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

21世紀初頭の日本における
インディペンデント・アニメーションシーンはどうなっていたのか(後編)
――土居伸彰が語る、Animations・CALF・ニューディアーでの体験土居伸彰+水江未来 対談

 

変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイトが開く
新たな回路

 


――CALFレーベルによる個々の上映イベントについてもうかがいたいのですが、一つに「変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイト」、通称「変態ナイト」が有名です。こちらはいつから?


土居 2012年の広島で、第1回を開催しました。こちらも広島アニフェスに寄生する形でやりました(笑)。広島のコンセプトが「愛と平和」だったので、「変態ナイト」は「憎悪と破壊」をテーマに作品を集めよう……というのは冗談ですが(笑)、広島のコンペティションでは上映されないような作家を選ぶ、というコンセプトで始まったのは確かです。


水江 2012年の広島、僕が国際選考委員の一人だったんですよね。それでいながら、「変態ナイト」のほうでもMCをやっている(笑)。


土居 ひどい二枚舌ですよね(笑)。「変態ナイト」では、僕と水江くんがMCを担当しているんです。


水江 単に上映するだけだとどう楽しめばいいのかわからない代物ばかりを集める上映会だったので(笑)、作品と作品の合間に「いやー、今のも頭おかしいですよねー」みたいなツッコミを入れたほうがいいだろうと。そんな上映会にもかかわらずすごく評判がよくて、「変態ナイト」は大ヒット企画になった。


土居 反響は本当に大きかったですね。でも準備中はすごく怖かったんです。ちょうどその頃、ブルース・ビックフォードが新作『CAS’L’』(2010)をリリースしていて、これは面白そうだと取り寄せてみたら、短編ではなく45分もあって、しかもどう考えても「これ、物語の途中で終わってない?」みたいな尻切れトンボ的な作品で……もちろんビックフォードはフランク・ザッパのファンの間でも有名な伝説的な作家でしたが、「本当にこれ流して大丈夫なのか?」と。物語も全然わからないんですよね。2時間のイベントのうちの45分間が、ただ単に粘土がウニョウニョ動いているだけでいいのかと……でも、怪我の功名というか、変化をしつづけるビックフォードの作品を観ることで、「メタモルフォーゼ」というフレーズが思い浮かんで、それを「メタモルフォーゼ=変態」と読み替えるアイディアへ発展していった。変態的なまでに自分自身の道を突き進む作家たちの作品を集める、それを観ることで観客の知覚も変容する、というコンセプトになったわけです。
 ビックフォードの作品はいい意味でも悪い意味でも大きなインパクトを残しまして(笑)、昔の彼の経歴を知らない人からの再評価が始まることになりました。そこから繋がって、その後GEORAMAの企画で、2015年12月と2016年2月に来日もしています。ただ、ビックフォードは残念ながら今年2019年4月末に亡くなってしまいました。今年、追悼上映をやりたいと思っています。


水江 「変態アニメ」は「HENTAI」として別の意味を持つものでもあったので、アニメーションへの敬意がないと顔をしかめる人もいたんですが(笑)、でもお客さんだけでなく、上映作品の作家もすごく喜んでくれましたよね。


土居 コンペでは選びにくいけれど、素晴らしいものを作っている作家たちというのがいるわけですよ。アクの強い作品を作る人たちが。たとえば、ピーター・ミラード。ピーターは今では映画祭界隈でも評価されてますけど(それでも広島やアヌシーは決して選びませんが)、世界で一番最初にピーターの回顧上映をやったのは「変態ナイト」ですからね。作家にとって、映画祭以外のセーフティーネット的なものとして機能させたいという意図もありました。

 

「変態アニメーションナイト2014」予告編


――「第三の外」として「変態アニメーションナイト」があったわけですね。広島国際アニメーションフェスティバルの外に山村さんが「知られざるアニメーション」で紹介する世界があり、その外にハーツフェルトを含む世界のフェスティバルの多様性があり、さらにその外に映画祭でも上映されないような「変態」な作品がある。


水江 どんどん外がある(笑)。


土居 変態ナイトの人気については、大山さんの発案による、昔のホラー映画風ポスターのインパクトも大きかったですね。それを見て、これまで短編アニメーションをまったく知らなかったような人たちまで来てくれた。単なるネタ企画に思う人もいるわけですけど、短編アニメーションに対する新しい入り口を作れたと思うんですよね。


水江 広島が満員になったのはもちろん、その後全国各地でやっても、変態ナイトはすごく人が入る。Twitter上の感想を見てみても、若手の女優さんをはじめ短編アニメーションにアンテナを張っていないような人たちが見に来て「面白かったー」とツイートしてくれていた。そういうの見たとき「これはすごく可能性があるな」と思いましたね。

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