東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

未来への想像力を科学と感情が刺激する――
「マンガミライハッカソン」プレトーク
「マンガのシンギュラリティ」レポートいわもとたかこ

アップデートされにくいコンテンツの中の未来像

 自動運転、工場の自動化、生活の場面へのロボットの導入、人工知能(AI)、データによる人間の管理、宇宙旅行、深海探索――。

 

 2019年になり、20世紀までのマンガやアニメ、SF小説で描かれた未来の姿が見えてきた。ガンダムがうまれる宇宙世紀ゼロ年にあたり、人工知能が人間の知能を超えるシンギュラリティが起こるともいわれている2045年も近づく今、当時のマンガやアニメ、小説で描かれた世界は、倫理や法律を無視すれば(商業化は厳しいとしても)技術的には可能なものも少なくない。

 

 しかし情報技術と社会のかかわり方を研究する庄司氏によると「マンガやアニメの中では未来として描かれるものは、何十年も前に想像されたイメージを使っているようにみえる」とのこと。しかも技術が発展する中で、本当の未来は「20世紀に描かれた未来都市にはならなそう」(庄司氏)にもかかわらず、だ。

 

 なぜ物語の中の科学像、未来像はなかなかアップデートされないのか。マンガ家ユニット「うめ」でシナリオなどを担当する小沢高広氏は「科学や情報技術を扱うハードルがある」という。科学に限らず、マンガやアニメで専門分野を描くと、物語展開の都合上、専門家からは現実味がないように見えてしまうことがある。社会や技術の仕組みが複雑になると同時に、マンガやアニメにリアリティが求められるようになったことで、物語の中で描かれる専門知識も一定水準をクリアする必要が生まれかえって扱いにくくなっているのかもしれない。

 

 

 とすると、専門家と連携するのはひとつの解決策となりそうだ。実際、人工知能と人間の恋愛を描くマンガ『アイとアイザワ』(かっぴー、うめ作)では、筑波大学で人工知能を研究する大澤博隆氏が監修についた。小沢氏は「最初は読者からつっこまれないために、滑るところを止めてもらうようにお願いしていた。打ち合わせのなかでだんだんと大澤さんから面白いフィードバックを受けるようになった」と関わり方を振り返る。確かに最近のマンガのヒット作では、『週刊少年ジャンプ』連載の『Dr.Stone』のように、専門分野について監修を受ける例が少なくない。

 

 物語と知識伝達の両方を追求しようとするマンガが難しいのは、「ただ単に科学技術を描けばいい」というわけではないところだ。小沢氏は「藤子・F・不二雄先生は、科学モノとして『ドラえもん』を描いたわけではない」と指摘。つまり、「ダメな自分をサポートしてくれる存在」としての神のような存在としてロボットを描き、そこに当時はまだブラックボックスだった最先端の技術、遠い先の未来だった22世紀を詰め込んで説得力を出した、とのこと。それでも「作家が描きたいものをサポートするブラックボックスを作ってくれるひとがいればうれしい」(小沢氏)とクリエイターからの科学側への期待は大きい。

 

技術の導入で変わる人間や社会をどうとらえるか

 社会に科学や技術が広がれば、それを受け止める社会や人間も変化を求められる。例えばAIは、今すごい勢いで私たちの社会の中に入り込み始めている。感性情報処理が専門の中西氏は「これから付き合いが続いていくAIによって、人間がどう変わるのか。想像しにくいからこそ、その想像を具現化させるツールとしてマンガがあってもいい」と述べた。

 

 特に人間関係や人との距離感、連絡の取り方はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及によって大きく変わった。臨床発達心理学・発達生物心理学が専門の高瀬氏も「人々の心のありようが変わっているのではないか」とみている。複数の様々な特性を持ったSNSの普及で、若者を中心にSNSのチャンネルごとに自我を確立し、自分を使い分けようとする人も出てきている。

 

 一方でマンガの主人公の主流は依然として自我の統一の確立のために葛藤している人。「個がわかれて、多重構造になっている状態が描かれてもおもしろいのでは」と高瀬氏から問題提起があった。中西氏も「『これ以上SNSをつかえない』となったとき、使える人と使えない人の間で分断が起こり、人間関係もかわってくる」とみている。もちろんマンガやアニメでは人々の連絡手段としてスマートフォンやSNSの導入は進んでいるが、「それによって人間関係がどう変わるのか」という点は、マンガ表現はまだ追いついていない視点ではないだろうか。ここにマンガで描かれる世界のアップデートの余地がある。

 

チームで作品を作ることの意義

 今回のハッカソンでは、違う背景を持った人同士がチームを組んで作品を作ることになる。しかも設定の段階から、科学者が入るという贅沢。実際にチームでマンガ制作をしている小沢氏は「科学者の方に『東京スカイツリー、飛ばせませんか?』とかびっくりすることをいっても、いろいろな知識で肯定してもらえる可能性がある。楽しいし贅沢だと思います」と指摘した。

 

 もちろんこれまでのマンガ制作でも、マンガ家自身や編集者が、描こうとする分野について調べ勉強してきた。しかし、必ずしもその分野の専門家の水準におよぶわけではない。「創作に理解があり、専門知識を持っている人が入ってくれるというのはしめたもの」(小沢氏)というのにもうなずける。

 

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