未来への想像力を科学と感情が刺激する――
「マンガミライハッカソン」プレトーク
「マンガのシンギュラリティ」レポートいわもとたかこ
最新技術が普及したときに生まれる人間の感情とは?
こうしたチームアップで、特に最新の科学をマンガで扱うことについて、これまでマンガ家と組んできた編集者の目にはどう映るのだろうか。フリーの編集者で、幅広いジャンルの作品を手掛ける豊田夢太郎氏は「マンガの目的のひとつに、読者の感情を惹起することがある以上、人工知能を含めた最新の科学技術が普及したときに、どういう感情が人間に起きるのかを描いてもらうことになるのかな」と述べた。
確かにすでに出版されている、例えば人工知能やロボットを扱うマンガ――山田胡瓜『AIの遺伝子』、業田良家『機械仕掛けの愛』、島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』など――では、技術そのものというよりも、その技術が身近になったときの人間の感情が描かれている。これは、多くの受け手は過去や現在の自分と作品中のキャラクターの感情の動きを重ね合わせて物語に入り込むことが多いからだ。
そして豊田氏がさらなる挑戦としてあげるのが「未知なる技術を描いているからこそ立ち上がる、未知の感情を描くこと」。これができるなら、科学や情報技術というテーマを描く対象として選ぶ意味があるという。豊田氏が前例として挙げたのは、幸村誠『プラネテス』。これは宇宙開発で発生するスペースデブリ(宇宙ごみ)の回収業者で働く人たちを描く物語で「宇宙空間での孤独」というおそらく出版当時(そしていまでも)「多くの人は体験したことのないだろう感情が伝わってくる」(豊田氏)もの。ここまでいかなくても、技術の浸透で人間の感情や生活、価値観がどう変わるのかは今後の作品でリアリティを追求するのであれば、キャラクターづくりで抑えるべきポイントになる。
そもそも「未来」とはどこなのか?
21世紀において、SFなどを描こうとしたとき、過去に比べて物語の中で受け手が共有できる「未来」を設定しにくくなっているのも確かだ。日本の伝統文化や若者文化の海外展開を研究する荻野氏によると「トキワ荘出身のマンガ家が活躍したころは、多くの人がたどり着く可能性の高い未来として『21世紀』が受け入れられた。しかも科学技術の時代だとみんなが考えていた」とのこと。過去の作家の多くは、科学が浸透した先の未来の生活や人間関係を共通のイメージとして想像していたわけだ。
とすると、大きく科学が発展したいま、現代の私たちも次の未来像を定義する時期に来ている。ただこれには「正解があるわけではなく、過去と現在のさきにあるものを自分で判断してほしい、というメッセージを作品にしたほうが面白い」(荻野氏)のだろう。
このあたりは豊田氏も同じ問題意識を持っている。「ニュースなどを見ているだけではどこまで実現可能性があるかわからない。実際に研究者に話を聞くことができれば、それがトリガーになってマンガ家は想像力を膨らませることができる」とみていた。