東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アニメ系ニュースサイトはどのように成立したのか(前編)
――アニメーション、インターネット、ジャーナリズム数土直志インタビュー

アニメ系ニュースサイトはなぜ潰れるのか?


――『アニメ!アニメ!』を立ち上げるまでの経緯を教えてください。


数土 2000年代の前半、社会人大学院へ通い始めた頃から起業をしたいと思っていて、ニュースサイトならうまくいくのではないかと考えたからです。インターネットが世帯の8割にまで普及した時期でしたし、サイト運営は参入障壁が低くて、お金もあまりかかりません。さらに個人ニュースサイトも盛り上がりを見せていて、規模をどんどん大きくしていくところも多かったんです。今ではもう信じられませんが、商品情報サイトの『価格.com』なんかも、もともとは個人サイトでしたからね。
 でも最初からアニメを扱おうと決めていたわけではなくて、金融経済と現代美術も候補でした。金融については前職が証券マンだったからなのですが、ビジネス系ニュースサイトは『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『ブルームバーグ』などがすでに存在していて、とても個人が太刀打ちできるジャンルではありませんでした。かといって現代美術では読者層があまりに狭すぎて収益が見込めないので、アニメが最適だなと。


――当時のアニメ系ニュースサイトの状況はどのようなものだったのでしょうか? まだ珍しかった?


数土 そうですね。個人のアニメ系ニュースサイトはたくさんありましたが、企業が運営するものとなると、コミックス・ウェーブ・フィルムが旧コミックス・ウェーブ時代に開設した『MANGAZOO』や、現在の『アニメイトタイムズ』の前身である『アニメイトTV』くらいだったと記憶しています。
 僕は2004年に『アニメ!アニメ!』を始めましたが、開設したばかりの頃は独自ドメインを取らずに、ブログサービスを借りて運営していました。というのも、当時はまだライティングの仕事の経験がなかったので、自分に人に読まれる文章を書けるのかどうかわからなかったんです。でも試しに始めたブログが意外にアクセス数を稼いだので安心しました。ちなみにブログが読まれるようになったのは『カトゆー』さんがきっかけなんですよ。


――個人ニュースサイトの『カトゆー家断絶』ですか?


数土 はい。あの頃の個人ニュースサイトは横のネットワークみたいなものがあって、『カトゆー』にリンクを貼られると他の大手サイトでも取り上げられるような流れができていましたよね。そのおかげで認知されて、アクセス数も順調に増えていったので、2005年にドメインを取得して正式にスタートしました。


――当時、ニュースの情報はどのように集めていたのでしょうか。


数土 製作会社に出向いて「プレスリリースをください」とお願いしていましたね。今でこそ多くの企業がニュースサイトにプレスリリースを配信していますが、当時のアニメ業界では、そういったことが行われていなかったんですよ。そもそも宣伝担当者の中にはアニメ系ニュースサイトが存在すること自体を知らない人も多かったので、まずはどんなメディアなのかという説明から始める必要がありましたね。そういったやり取りを重ねていくうちに、イベントの取材依頼が来たり、宣伝側から「インタビューもやってみませんか?」と声をかけてもらえるようになって、ニュースサイトとしての体裁が整っていきました。
 人脈作りという点においては、大学院時代の修士論文が役に立ちました。「米国市場における日本製アニメーションの競争優位性関する研究」という論文だったのですが、資料のために日米のアニメ関係者にインタビューをしたんです。そのときに繋がりができた人たちとは今でも交流があるので、そういった面でも論文を書いておいてよかったですね。


――ではビジネス的にも順調だったのでしょうか?


数土 いえ、それが決して順調とは言えない状況で……。自分でサイト運営する前は「どうして世の中にアニメ系ニュースサイトが少ないんだろう?」と不思議だったのですが、答えはすごく単純で、儲からないからなんです(笑)。『アニメ!アニメ!』ではGoogle AdSenseやバナー広告も用意していたのですが、それだけではほとんど利益になりません。儲からないのは他のアニメ系ニュースサイトも同じで、『MANGAZOO』は旧コミックス・ウェーブが解散した2007年に更新停止になりましたし、NTTドコモの社内ベンチャーが運営していた『プレセペ』も、2006年から2009年までの3年で目標に達成できず、別会社に移管されたのちにサービスを終了してしまいました。


――なぜアニメ系ニュースサイトは儲からないのでしょうか?


数土 理由は主に二つあります。まずは「まとめサイト」の問題です。著作権などの法律、情報解禁時間などの業界のルールを無視した「まとめサイト」のほうがPV(ページビュー)を稼ぐという点では圧倒的に強いんです。もう一つはアニメ業界自体が、ゲームや映画に比べると市場規模が小さいことです。僕がいた頃でも『アニメ!アニメ!』の月間PV数は、ほかのアニメ系ニュースサイトと比較して多かったのですが、それでも他の表現メディアのメジャーサイトに比べると見劣りしました。そのため広告の単価は下がってしまいます。
 それなら企業とタイアップした記事広告はどうなのかと言えば、そもそもアニメの場合はPR記事にお金を出してくれる会社が少ない。アニメ業界で最も宣伝費をかけているのはパッケージメーカーですが、今はBlu-ray・DVDの売上がどんどん下がっていて、予算も少なくなっているので、記事広告を出す余裕がなんてないのが現状です。アニメ系ニュースサイトはときどき思いついたように新しく立ち上がるのですが、結局は途中で潰れてしまうところがほとんどです。「アニメが人気だから」と思って始めてみたら、実はまったく儲からないことに気付くという歴史の繰り返しなんですよ。

 

聞き手:高瀬康司、土居伸彰、構成:高橋克則

 

後編へつづく】

 

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト、日本経済大学大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授。メキシコ生まれ、横浜育ち。証券会社を経て、2004年に情報サイト『アニメ!アニメ!』、2009年にはアニメーションビジネス情報サイト『アニメ!アニメ!ビズ』を設立、編集長を務める。2012年、運営サイトを株式会社イードに譲渡。2016年7月に『アニメ!アニメ!』を離れ独立。現在は『アニメーション・ビジネス・ジャーナル』を運営。主な仕事に「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社、2017年)。IMARTカンファレンス スペシャル・アドバイザー。

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