東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

アニメ系ニュースサイトはどのように成立したのか(後編)
――アニメーション、インターネット、ジャーナリズム数土直志インタビュー

フリーランスとしての生き方


――近年では講演活動も増えていますが、数土さんの中ではどのような位置付けなのでしょうか?


数土 僕の役割は世の中の集めきれない情報を収集して、伝えるべき人に発信していくことだと考えています。そこが自身をライターと言わない理由です。発信のための手段は問わないので、僕の中に書くことと話すことの差はないんです。もし世に必要とされている情報を届けられるのであれば、文章でも話すことでも、Webでも雑誌でもテレビでも講演でも構いません。講演は文章に比べれば伝えられる人数自体は減ってしまうのかもしれませんが、わざわざイベントに足を運んでくれる人は、それだけ情報を求めているということでもありますからね。誰でも読めるWebメディアでの活動を長く続けてきたからこそ、そういった熱意のある人たちに情報を届けたいという気持ちが生まれました。


――日経新聞のセミナー「COMEMO x アニメビジネス NIGHT OUT」などは回を重ねられています。どういった内容なのでしょうか。


数土 「COMEMO x アニメビジネス」はARCHの代表取締役であるアニメプロデューサーの平澤直さんらと一緒に行っているイベントです。毎回ゲストを迎えてビジネスについて語ってもらっていて、ツインエンジンの内田康史さんを迎えてファイナンスについて解き明かしたり、コミックス・ウェーブ・フィルムの角南一城さんに海外への番組販売について教わったりしています。知りたがりの僕にはぴったりの企画ですね。ありがたいことに毎回満席で、もっとアニメビジネスを知りたいという需要が存在するとわかったので、今後はより公開インタビューに近い形式を採って続けていく予定です。


――また2017年3月には初の著書『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』(星海社)を出版されました。


数土 本を書きたかったということもフリーランスになった理由の一つです。星海社からは当時話題になっていた「中国と配信」というオーダーが出て、その二つを中心にアニメビジネス全般について執筆しました。それでも人材やファイナンスについてなど、書き残したことは多いですし、ここ数年の間にも大きな変化があったので、2冊目を出せる機会をうかがっています。


――もし今から執筆するとなると、どんな話題になりそうですか?


数土 実は2冊目は、「インターネットとアニメ」というお題がすでにあるのですが、さらに関心があるのはアニメのグローバル化についてですね。アニメはすでに日本国内だけでは成り立たない状況が来ていると、僕は思っています。昔は「日本だけでいい作品を作っていれば、海外が面白さを認めて買ってくれる」と言われていて、たしかに2010年頃までは通用していました。でも現在は制作予算がかなり膨らんできた反面、パッケージは売れなくなっています。その差分を埋めるために海外のお金を当てにしなければ、そもそも企画自体が動かないような状態です。どうやって海外と手を組むのかが大きな問題になっていくと思います。
 それはビジネス側だけではなく、クリエイターにとっても無縁ではありません。日本のクリエイターが海外でチームを組んでアニメを作っていく時代になり始めています。Netflix配信のオリジナルアニメ『エデン』は、様々な国籍のスタッフが参加して、プロデューサーはアメリカ、監督・脚本・キャラクターデザイン・制作進行は日本、スタジオは台湾、背景は中国、音楽はオーストラリア、コンセプトデザインはフランスと、多様性にあふれています。もはやどの国のアニメなのか一言では表現できないほどですが、それこそがアニメの未来形だと考えています。そういったグローバリズムが日本にとっていいのか悪いのか、どういう風に進んでいくのかに関心を持っています。


――また一方で、アニメ系ニュースサイトの今後についてはどうお考えですか?


数土 情熱のある若いライターがもっと必要でしょうね。『アニメ!アニメ!』の運営に限界を感じた点の一つもそこで、年のいった僕が京都アニメーションのことを書いても、時代性や当事者性が生まれませんから。本来それを伝えるべきなのは、その作品を観て盛り上がっている現在の若い世代の人たち。今は特に、生の声が求められているという実感があります。だから「なぜ僕たちがこのアニメに熱狂しているのか」といった感情を交えて書ける人が出てほしいです。


――最後に、数土さんが今後チャレンジしてみたいことは何でしょうか。


数土 そうですね……大きく出れば、アニメのアワードがあればいいですね。アニメーション神戸は2015年に終了してしまいましたし、文化庁メディア芸術祭もセレクトは面白いのですが、海外作品や短編が混在しています。東京アニメアワードフェスティバルは一次審査がファン投票です。なので今、日本のアニメ業界や批評家がきちんと評価するアワードが抜け落ちていますよね。海外の映画祭での受賞を喜ぶだけではなく、日本から海外に発信できるような独自のアワードが必要だなと感じます。


――最後の最後に。11月15日から17日にかけて、アニメやマンガをめぐるカンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」が開催されます。数土さんもカンファレンス スペシャル・アドバイザーとして深く関わられていますが、開催へ向けての抱負をお願いします。


数土 アニメ業界にはカンファレンスが存在しなかったので、IMARTは世間が求めているけれど表には出ていなかった情報が披露される絶好の機会になると思っています。プログラムを見て、もしかしたら「内容が専門的で難しそうだな」と思っている人もいるかも知れませんが、何か新しいことを覚えるときは、入門書ではなく専門書から読むべきなんです。専門家相手に話しているぐらいの知識を最初に入れておかないと、一定レベルに到達する前にだいたい止めてしまう(笑)。そういう意味ではIMARTは最良の入門の場になると思います。
 また一つの作品で、プロデューサー側と監督側の両方の話を聞けるセクションがあったりもしますからね。ビジネスとクリエイティブの両方の意見を聞くことで、また違った角度から作品が見えてくると思います。
 この3日間通して参加したらすごい知識が得られますよ。自分が関わっているから宣伝しているのではなく、僕自身も本気で楽しみにしています。

 

聞き手:高瀬康司、土居伸彰、構成:高橋克則

 

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト、日本経済大学大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授。メキシコ生まれ、横浜育ち。証券会社を経て、2004年に情報サイト『アニメ!アニメ!』、2009年にはアニメーションビジネス情報サイト『アニメ!アニメ!ビズ』を設立、編集長を務める。2012年、運営サイトを株式会社イードに譲渡。2016年7月に『アニメ!アニメ!』を離れ独立。現在は『アニメーション・ビジネス・ジャーナル』を運営。主な仕事に「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社、2017年)。IMARTカンファレンス スペシャル・アドバイザー。

「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門スペシャル事業「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」は、2019年11月15日(金)~11月17日(日)に、としまセンタースクエア(豊島区役所本庁舎1階)・豊島区役所本庁舎5階会議室にて開催されます。
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