東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

中国におけるマンガはどうなっているのか(前編)
――プロダクション方式、Webマンガ、メディアミックス黄亦然インタビュー

中国のマンガができるまで


――ではあらためて、中国のマンガの歴史について簡単にうかがえるでしょうか。


 マンガ的表現自体はかなり古くから見られます。明や清の時代にはヨーロッパの風刺画に近い絵画がすでにありました。ただ、その頃の作品がマンガと呼ばれることはありません。1900年代初頭にはじめて「漫画」という言葉が中国の媒体で登場し、1920年代に豊子愷先生が『子愷漫画』を発表されたことで、「漫画」という言葉が知られるようになりました。私が読んだことのある最も古い作品は、中国の現代マンガの代表的存在と言える張楽平先生が1935年に始めた『三毛流浪記』と呼ばれるシリーズで、中国マンガの一種である「連環画」というスタイルで描かれています。


――「連環画」とはどういったものなのでしょうか。


 1ページごとに大きな挿絵が付いていて、その下に書かれた文章を読みながらストーリーを楽しむ作品です。コマ割りやフキダシはないので、マンガよりは絵本に近い、日本では絵物語と呼ばれる形式ですね。しかし中国のマンガは第二次大戦後に停滞期を迎え、その間、日本マンガの影響力が徐々に大きくなり、1980年代には日本マンガ一強とも呼べる時代が訪れます。中国国内で描かれるマンガも、日本マンガのテイストを取り入れた作品がとても多かったですね。


――その状況が変化したのはいつ頃から?


 1990年代からです。中国の若手作家が台頭してきて、2000年代にはインターネットを通じて描く、新たな世代が誕生します。中には、夏達先生のように、日本のマンガ雑誌で連載を持つような作家も現れました。2010年代の初頭には顔開先生も『機動戦士ガンダムUC』の中国版コミカライズを手がけています。


――現代の中国マンガの特徴を教えてください。


 まず制作手法が日本とは大きく異なっています。日本は作家主体で描きますが、中国はアメコミと同じように集団で創作をするプロダクション方式が主流です。分担や役職名はスタジオ毎に微妙な違いがありますが、プロデューサーが作品の責任者として作品全体を統括し、「原作者」とクレジットされることが多いです。作画に関しては「主筆」と呼ばれるメインのキャラクターデザイナーがいて、表紙に載るのは基本的に、原作者(プロデューサー)もしくはスタジオ名と、主筆だけです。


――ということは、シナリオ(原作)はプロデューサーが書くのでしょうか?


 建前ではそうなっていますが、シナリオライターも別に存在しています。ただ名前が出ることはほとんどありません。


――では主筆の役割は? キャラクターデザインと作画を主導する?


 いえ、これもスタジオ毎に微妙な違いがありますが、基本的には脚本(プロット)をネームに起す人です。スタジオによっては、ライトノベルの絵師のようにキャラクターデザインをする人もいれば、全部を一人で仕上げる人もいます。
 主筆の下に線画や色彩など細かく分けられたセクションがあり、基本的に実際の作画作業を行うのはそのスタッフたちです。プロダクションの社員なので月給制ですが、あまり高くはなく、一部の人気スタジオを除けば、マンガだけで生計を成り立たせるのは難しいと言われています。日本のアニメーターに近い環境なのかもしれません。


――集団でマンガを描くのは中国の伝統なのでしょうか?


 いえ、ネットが普及してからシステム化されたので、ここ10年ぐらいの話ですね。日本のマンガ連載のシステムは世界的に見てもかなり特殊で、そのまま中国に持ち込むのは難しいため、一般性のあるアメコミの分業制が広がったのではないかと私は考えています。それに中国には「全員で意見を出し合ったり、一緒に作業をしたりするほうが優れた作品が生まれる」という考え方もあり、マンガに関するフォーラムでは中国人の参加者から「なぜ日本のマンガは一人で作っているのに、あんなに面白いのか?」という質問が飛んだりします(笑)。


――日本では編集者もクリエイティブに関わってきますが、中国はいかがですか?


 中国にも編集者は存在しますが、マンガ家と二人三脚で作品を作っていく日本の編集者とはやはり役割がかなり違います。基本的にはスタジオのプロデューサーがすべてに関して責任を持つ立場なので、編集者は主にスケジュール管理したり、原稿をWebにアップロードしたりといった、マネジメントやサポートがメインの仕事です。


――また掲載媒体も日本とは異なると思います。中国のマンガはWeb連載が主流なのですよね?


 はい、紙で出版されることはほぼありません。縦スクロールで読み進める形式で、フルカラーの約10ページを、プロダクションごと週に2〜3本ずつ連載しています。


――日本の週刊連載マンガはモノクロで約20ページほどですが、それと比べてもさらにハードなスケジュールです。


 中国のマンガはスピードが最も大事なんですよ。Webマンガの読者層は主に、ネットのスピード感の中で育った10代の若者たちで、彼ら彼女らを飽きさせないために、いかに早く更新できるかが重要なんです。作業はアナログのセクションが一つでもあると効率が一気に落ちるため、すべてデジタルで統一されています。

 

聞き手:高瀬康司、山内康裕、構成:高瀬康司、高橋克則

 

後編へつづく】

 

黄亦然(こう・えきぜん)
1987年、中国黒龍江省ハルビン市生。大阪芸術大学キャラクター造形学科卒業。「一般社団法人マンガジャパン」「NPOアジアMANGA運営本部」「デジタルマンガ協会」事業統括部長。現在は、日本国内でマンガ家関連のイベント企画などを行いながら、中国をはじめアジア各国・地域のマンガ家との交流活動を進めている。

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