「30年目の“サルまん3.0”!? 相原コージ×竹熊健太郎×江上英樹
『サルでも描けるまんが教室』スペシャルトーク」レポート相原コージ+竹熊健太郎+江上英樹
『サルまん』か、旅行記か
――『サルまん』が動き出すときはどんな感じだったんですか?
竹熊 最初に僕が考えていたのは、マンガを描くにあたって、こう描いてはダメだっていう悪例集。やってはいけないことだけで、一冊作れないかと思った。
江上 相原さんは?
相原 その頃すでに、周囲の作家に「パンチラ進化論」の話をしてて、そのネタは活かそうとは考えていました。あとは『かってにシロクマ』とか『コージ苑』の執筆がすごく辛かったから、「マンガに対するうらみつらみを描きたい!」と思っていました。
竹熊 マンガ界に対するうらみが相当あるって言ってたよね。
――お二人のアイデアを組み合わせるというのは、どなたの発案だったんでしょうか?
竹熊 確か僕と相原くんが話してる過程で、お互いに書きたいアイデアがあるっていう話になったんじゃないかな? それで「じゃあ一緒にやりましょうか」となって、「マンガの描き方」と「旅行記」の企画を出した。
江上 どうして旅行記ではなくマンガの描き方のほうに着地したんですか?
竹熊 もともとは、マンガの描き方の企画はマンガ自体をバカにするような部分が出てくるから、マンガ誌には載せられないんじゃないかっていう話を、相原くんと2人でしてて。旅行企画のほうは「会社のお金で旅行に行けるしやりたいよね」と。
ところが、白井さんが「マンガの描き方がいい」と言ってそっちに決まってしまった。とはいえ、『サルまん』の打ち合わせで結局旅行には行ったんですけど(笑)。
相原 何回か合宿しましたよね。
竹熊 そんな感じで連載が始まったと。でも当初は、ペンの使い方とか、定規の使い方とか、コマ割りとか、マンガの描き方の技術的な部分を中心に作ろうという方針だったのが、10回もいかないうちにつまんないって話になってきて。技術論のギャグは、専門的すぎて同じパターンの繰り返しになっちゃうから。
江上 「ワク線の引き方」とか考えましたよね。
竹熊 太さ10センチで引いて絵を描く部分をなくしたりとか、陰毛でワク線を作ったりとかね。でも何回かやると同じことの繰り返しになる。
江上 それでどうしたんでしたっけ?
竹熊 「ジャンル別攻略」にした。そこから『サルまん』がブレイクしたんですよ。
『エヴァ』と『サルまん』の共通点
江上 個人的には雑誌別のネタが好きでしたね。
竹熊 桃太郎が『ジャンプ』に載ったらこうなる、『サンデー』に載ったらこうなる、『マガジン』に載ったらこうなるっていうやつね。
江上 『チャンピオン』に載ったら、というのがオチ(笑)。
竹熊 全部番長マンガになる(笑)。
相原 このネタもどこかの旅館で合宿して練ったなあ。
竹熊 旅館の売店で『ジャンプ』『サンデー』『マガジン』『チャンピオン』を買って読んだんですよ。
相原 『サルまん』ではマンガの分析をしてるから、さも同時代のマンガをすごく読み込んでると思ってた人もいたみたいなんだけど、実はあんまり読んでない(笑)。そのときどきで、みんなで検討しながら作ってたんだよね。
江上 でもジャンル別もまた詰まってきますよね?
竹熊 そう、それで「とんち番長」編に入る。あのときに、相原くんと僕とで論争があったんですよ。相原くんは『サルまん』を業界に対する不平不満を描くっていう方向に持っていきたかった。
相原 そうだっけ?
竹熊 でも僕は、「ジャンル別攻略」編で物語の構造の分析みたいなことをやったんだから、次に業界の裏話に行くのはちょっと違う。実際に漫画の中で違う漫画を連載するのはどうかと。それで「とんち番長」になったんです。
江上 基礎トレーニングみたいなものをやってきたんだから、そのまま実践編へ行くぞ、ということですね。
竹熊 結果的に「とんち番長」は画期的な劇中劇になったと思うんですけど。でも、確かに相原くんは大変だろうなと思った。
相原 僕はそれもあって反対してたんだと思う。それまでは竹熊さんも割と絵を描いてたんだけど、マンガ内マンガは全部僕一人で描かなきゃいけないから。
竹熊 相原くんの作業量がすごいことになる。
相原 終盤で僕ら2人がケンカするシーンが出てくるんだけど、あれは「とんち番長」のときの心象風景が投影されたものですね。
竹熊 その直前に白井編集長から、「あの藤子・F・不二雄先生が『サルまん』を褒めてたぞ。誇りに思え」って聞いたんですけど、その翌週が、作者二人が殴り合いの大ゲンカをして仲違いする回だった。
江上 「とんち番長」も、ネタを全部用意してから作業を始めてるわけじゃないんですよね。作中と同じで、毎週まず自分たちをどれだけ窮地に追いやるか、ってところを考える。
一同 (笑)。
竹熊 日本のとんち話って、基本ダジャレなんですよ。一休さんの「このはしわたるべからず」だって、端っこの「はし」と橋の「はし」をかけたダジャレでしょ。でもダジャレだけで続けるのは無理だって、だんだん追い詰められていった。
江上 これ、打ち合わせも相当きつかったんじゃないですか?
竹熊 それで追い詰められていく過程を連載に反映することにしたの。『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督も『サルまん』のファンだったらしいんですけど、『エヴァ』でも毎週の放送が迫る中、無茶苦茶なスケジュールで無理やり作ってて、すごく『サルまん』に近いんですよ。
江上 そうかなあ(笑)。