東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門の歩み
――「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門事業ディレクター
+IMARTカンファレンススペシャル・アドバイザー座談会(後編)数土直志+菊池健+土居伸彰+山内康裕

2019年のタイミングだから開催できたIMART


――年間を通じた事業の集大成として開催されたIMARTでは、スペシャル・アドバイザーとしてマンガ部門では菊池さん、アニメ部門では数土さんがセッションの企画・選定に携わっています。まず菊池さんはどのようなコンセプトで臨まれたのでしょうか?


菊池 マンガに関してのカンファレンスであればトピックはいくらでも作ることはできますが、IMARTでは未来の話をしたかったので、近年動きが激しい「アプリ配信」や「電子書籍」、「デジタルで活躍する作家」といった分野にセッションを絞りました。そのため出版取次や書店といった、マンガに長年携わってきた功労者とも言える方々は呼ぶことができず忸怩たるものがありましたが、そのことでセッション全体に統一感が生まれたと思っています。


――IMARTの開幕を飾った特別講演も、『週刊少年ジャンプ』編集部の海外配信戦略に迫ったセッションで大盛況でした。


菊池 少年マンガの雄である集英社が自ら海外配信に乗り出したことは業界の中でも大きな動きでしたが、海外向けのアクションは現場レベルではあまり注目されない傾向にあります。みなが気になっているはずなのに、「海外の話だよね」とどこか他人ごとで済まされてしまう。そのためIMARTで大きく取り上げたいと考えました。蓋を開けてみれば、IMARTの中でも開会式に次いでお客さんが集まってくださり、最初のセッションとしてもとてもよかったですね。
 グローバル展開については、2日目のセッション「マンガのマーケティングが行く先」でも話題にのぼり、日本のマンガ産業は規模の大きさに対して、人員のリソースが小さすぎるという指摘がありました。確かに海外業務に関しては専門部署を立てずに、編集部の中で海外に明るい編集者が一人で担当していることもザラにある話です。ただ出版社の文脈では、誰かが試しにそういった形でやってみるという方法でなければスタートできなかった、という経緯もある。この二つのセッション両方に参加した人は、多角的な視点から新たな知見が得られたと思うんですね。セクション同士が実は繋がっているところも、IMARTの魅力だったなと思います。


――電子書籍についても、「マンガアプリ大座談会」は3コマに分けて大展開していました。どういった狙いだったのでしょうか?


菊池 購買・製造・販売という会計上のビジネスプロセスを、しっかり紹介したいと考えたことが、三つにセッションを分けた理由です。まず購買=仕入れは、マンガ業界では新人獲得に当たります。製造は編集部による制作、販売はどうやって読者に届けるのかということですね。そのプロセスを分解すれば、それぞれのテーマ別に語ることができるだろうと目論んでいました。来場者の中にはマンガ業界の方々も多くて、初日のセッション「編集部とアプリ」には、『週刊少年ジャンプ』の元編集長で、現在は白泉社会長の鳥嶋和彦さんも来られていましたね。
 そもそもマンガアプリは出版社が二の足を踏んでいる間に、IT企業がどんどん進出してベースを築いていった分野です。しかし立ち上げから数年が経って、多くのアプリ系企業がマンガには編集部の機能が重要であることに気付き、出版社の優秀な編集者たちをヘッドハンティングしていきました。実際、今回の登壇者の中にも、もともとは出版社で働いていた経験のあるアプリ系企業の方も多かったですね。そういった産業構造の変化が起きたタイミングで、多くの関係者に参加してもらえたことは幸運でした。


山内 そうですね。クリエイターをゲストに迎えた「新たなマンガ家の姿」では、1コマ目にベテラン、2コマ目にネットで人気を集めている新世代の方々にご登壇いただきました。デジタル化やSNS時代に対応し、マンガ家が作品を描き続ける方法やアプローチは多様で、今回はベテランと若手の二つに分けることで、マンガ家志望者に向けて多彩なバリエーションを提示することができました。
 マンガ特化のセッション全体を通して感じるのは、3年前であっても3年後であっても、今回の登壇者たちは集められなかったでしょうし、内容も大きく変わっていたはずだということです。電子書籍や海外配信の変革期である2010年代の最後の年に、IMARTを実現できたことをうれしく思いますね。

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