東アジア文化都市2019豊島マンガ・アニメ部門スペシャル事業

マンガ・アニメ3.0

「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門の歩み
――「東アジア文化都市2019豊島」マンガ・アニメ部門事業ディレクター
+IMARTカンファレンススペシャル・アドバイザー座談会(後編)数土直志+菊池健+土居伸彰+山内康裕

マンガ・アニメとIMARTの未来


――アニメ部門を担当された数土さんはいかがでしょうか?


数土 カルチャーもビジネスも全部まとめたアニメのカンファレンスイベントはIMARTがはじめての試みだったので、幅広いセッションを手がけようと思っていました。配信とジャーナリズムという僕が昔から関心があったジャンルはもちろん、アニメ監督や個人作家、プロデューサーなど、第一線で活躍する面々をゲストに迎えたセッションが実現できた点もよかったですね。
 IMARTは合計24のセッションがありましたが、大まかに2パターンに分かれています。一つは登壇者を絞って徹底的にトークをしてもらうタイプ。もう一つは大勢を招いて座談会的に話してもらうタイプです。IMARTは1コマが2時間と長丁場なため、途中でネタが尽きてしまわないか心配していたのですが、まったくの杞憂でした。むしろ座談会の場合は時間が足りなくなるぐらいでしたね。個人的にはクリエイターのみなさんが率直に語ってくれたことがうれしい誤算でした。客席との距離感もよかったのか、ここだけの話がいくつも飛び出していた点も印象的です。


土居 僕は自分自身の普段の立ち位置的に、産業ど真ん中ではないオルタナティブな事例を伝えることがIMARTにおける役割だと考えていたので、国際性と官民連携をテーマに考えてセッションの企画を立てました。その最たるセッションが「世界のアニメーション教育の今――フランス・ゴブランの場合」「映画祭はいかに活用しうるのか? アヌシーの事例から」の二つです。これを企画したのは、官民が一体となってアニメーションを盛り上げているフランスの事例をきちんと紹介したかったからです。
 フランスは日本やアメリカとは異なるシステムで多様性を持ったコンテンツを送り出しています。アニメーションの中では第三国でありながらもロジカルな戦略を練っていて、世界を代表するアニメーション学校のゴブランも、世界最大のアニメーション映画祭のアヌシーも、僕自身もあらためて脅威に感じるほどに、明確なビジョンと理念があって状況が見通せている感覚を得ました。自分たちが何をするべきなのか、理論立てて理解できている。日本でアニメ教育や映画祭に携わっている人たちにとっても収穫のあるセッションだったと思います。


――教育に関しては、マンガ部門でもセッションを設けられていました。


菊池 はい。東京工芸大学、京都精華大学、京都造形芸術大学と、マンガ学部・学科のある大学で教鞭を執る方々に登壇していただきました。マンガを教えることには多くの困難がともないますが、そんな状況下でも教育機関が相当数のマンガ家を送り出せていることも事実なんですよ。そのことを知ってもらいたいという気持ちもありました。


数土 IMARTがよかったのはマンガ・アニメの双方を行き来するイベントになったことですね。僕が担当したセッションでは「マンガ・アニメの何を残すのか、なぜ残すのか」は非常に白熱しました。


山内 ジャンルを横断するセッションとしては「マンガ・アニメの「聖地」をどう考え、どう生み出すか」「“文化”としてのマンガ・アニメ、その制作支援・作家育成の可能性とその未来」もあります。これらのセッションは、国や自治体など公の機関でマンガ・アニメを扱う方々に聞いてほしいと思い企画しました。
 まず前者については、安易に使われがちになってきた「聖地」について、聖地とは何なのかをちゃんと考え、地域活性などに繋げられるバリエーションを示すことが目的でした。後者では文化庁と経産省の担当者を迎えて、各省庁はどういったスタンスでマンガ・アニメの振興政策に携わっているのかを解説してもらいました。省庁の捉え方が私たちとどう異なっているのかを比較できる機会は、これまでになかったと思います。


土居 同じマンガ・アニメに関わっていても、クリエイターや編集者、プロデューサー、省庁など、立場によって見ている光景はまったく違っています。IMARTでこれだけ多くの登壇者を迎えたのは、自分とは異なる分野の人たちがいったいどんなロジックを持って活動しているのかを知ることのできる場所にしたかったからなんです。分野を超えた共通認識が生まれてこそ、建設的な議論ができると思うので。


――最後にIMARTを終えた感想をお願いします。


数土 業界の知識の共有するカンファレンスは、ゲームの場合はCEDECがあり、CGの場合はSIGGRAPHがありますが、マンガ・アニメではこれまで存在しませんでした。その参考になりうる意義のあるイベントになったと思っています。課題を挙げるとすれば、アニメに興味がある人はアニメ、マンガに興味がある人はマンガのセッションにしか行かないことですね。分野を跨がったセッションはラインナップしていましたが、来場者同士の交流という部分はもっと盛り上げていける要素だと思っています。


菊池 そうですね。私が今回やりたくて全然できなかったことは飲み会なんですよ(笑)。海外のカンファレンスでは各ジャンルの登壇者や来場者が自主的に飲み会をしていて、その場で転職先が決まるということさえあります。セッションと同じぐらい交流も重要なものですからね。


土居 今回の成功を受けて、来場者の中からも「こういうセッションが必要だ」という意見が出てくると思います。今後どうなっていくかはまだわかりませんが、マンガ・アニメの未来を作っていくためには、そうしたフィードバックを受け取りつつ、継続して開催できる下地作りが必要だなと感じています。


山内 今回はテーマを絞った中でも様々な広がりを持たせることで、みなが必要だと感じていることは実現できました。ただ私はIMARTで未来について議論するだけでなく、IMARTから未来が生まれることが何よりも重要だと思っています。多くの人々が出会うことで、新たな意見や知見が生まれるライブ感が不可欠だろうと。そのためにも、一度では終わらない、より足を運んでもらえるカンファレンスに成長していけたらうれしいですね。

 

聞き手:高瀬康司、構成:高瀬康司、高橋克則

 

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト、日本経済大学大学院エンターテインメントビジネス研究所特任教授。メキシコ生まれ、横浜育ち。証券会社を経て、2004年に情報サイト『アニメ!アニメ!』、2009年にはアニメーションビジネス情報サイト『アニメ!アニメ!ビズ』を設立、編集長を務める。2016年7月に『アニメ!アニメ!』を離れ独立。現在は『アニメーション・ビジネス・ジャーナル』を運営。主な仕事に「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社、2017年)。IMARTカンファレンス スペシャル・アドバイザー。


菊池健(きくち・たけし)
1973年生。マスケット合同会社代表、漫画レビューサイト「マンガ新聞」ディレクター、トキワ荘プロジェクトアドバイザー、NPO法人HON.jpアドバイザー。漫画家支援の「トキワ荘プロジェクト」に7年間従事し、新人漫画家に安価な住居を提供しつつ、『マンガで食えない人の壁』等書籍制作、イベントや勉強会等を開催、新人漫画家支援というジャンルを構築した。かたわら、京都国際マンガ・アニメフェアの立上事務局メンバーとなり『まど☆マギ』生八ッ橋などの商品開発なども行う。京まふマンガ出張編集部、京都国際漫画賞なども立ち上げた。現在は、「マンガ新聞」を運営。IMARTではカンファレンス スペシャル・アドバイザーを務める。


土居伸彰(どい・のぶあき)
1981年東京生。株式会社ニューディアー代表、新千歳空港国際アニメーション映画祭フェスティバル・ディレクター。ロシアの作家ユーリー・ノルシュテインを中心とした非商業・インディペンデント作家の研究を行うかたわら、AnimationsやCALFなど作家との共同での活動や、「GEORAMA」をはじめとする各種上映イベントの企画、『ユリイカ』等への執筆などを通じて、世界のアニメーション作品を広く紹介する活動にも精力的に関わる。2015年にニューディアーを立ち上げ、海外作品の配給を本格的にスタート。国際アニメーション映画祭での日本アニメーション特集キュレーターや審査員としての経験も多い。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』(フィルムアート社、2016年)、『21世紀のアニメーションがわかる本』(フィルムアート社、2017年)など。


山内康裕(やまうち・やすひろ)
1979年生。マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科修了後、税理士を経て、マンガを介したコミュ二ケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し、マンガ専門の新刊書店×カフェ×ギャラリー「マンガナイトBOOKS」を文京区にオープン。また、マンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「これも学習マンガだ!」事務局長を務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社、2017年)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋、2016年)など。

Related Posts